ひろく国民の間に命あるもの

2019年9月30日 / 研究員 三浦 拓実

 このタイトルを見てピンとくる人はどれくらいいるだろうか。この言葉は動物愛護法に記載されている文言であり、動物とは多くの国民の間に存在するものであることを意味している。日本におけるペットの飼育頭数は犬が892万頭、猫が953万頭と、合計で約1,845万頭に達する(※1)。これは15歳未満の子どもの数(約1,614万人※2)を大きく上回る数値であり、動物愛護法に記載されているこの文言は客観的事実に基づくものと言える。
 しかし近年、日本国内のペットの飼育頭数は減少している。例えば、2018年の犬の飼育頭数は対2014年比で8.3%減となっている。このような背景には、主に二つの飼育阻害要因があると言われている。
 一つ目は経済状態である。飼育意向のある非飼育者のうち実に2割が「お金がかかる」ということを飼育上の阻害要因として挙げているのだ。2019年現在、“戦後最長の景気回復”と言われるものの、世論調査(共同通信・3月10日発表)によれば回答者の約8割が「景気回復の実感がない」としており、一般世帯の家計は厳しい状態にあると推察される。
 二つ目は住宅環境である。近年は住居形態としてマンション等の集合住宅が増えているものの、未だペット飼育が禁止されている集合住宅は多い。つまり、マンション等の集合住宅に住むと決めた時点で、ペットを飼育するという選択肢が無くなることになる。
 ペットの飼育頭数が減少傾向をみせる一方で、ペット飼育に対する支出は年々増加傾向にある。このペット飼育に対する支出増の要因には、人間の生活意識やライフスタイルの変化に伴ってペットの存在価値や役割が見直され、家族のひとりとして位置づけられる“コンパニオンアニマル化”の進行があるといわれている。近年の研究では、人間は犬や猫と触れ合うだけでオキシトシンなどの”幸せホルモン”の分泌量が増加することが判明している。特に海外では、動物介在療法を用いてうつ病患者の症状軽減、認知症患者のメンタルヘルスと身体機能の維持・向上を図る研究が進められており、ペットの存在が再評価されるきっかけになっている。
 また、ペットと関わる場所は自宅とその周辺というのが、日本人の一般的な認識だと思う。しかしながら、eコマースの世界最大手であるAmazonの米国シアトル本社では、6,000匹の犬が従業員と職場を共にしている。同様に、検索最大手のGoogleやクラウドアプリケーション等を開発するSalesforce、民泊情報サイトのAirbnbなどの大手テック系企業では、ペット同伴や福利厚生等のペットフレンドリー制度を導入しており、ペットの存在が職場にもたらす好影響を認めている。日本ではペット関連企業や外資系シェアオフィスを中心に同伴可の職場は少しずつ増えており、今後は様々な場面でペットの活躍が期待される。
 今後はペット関連市場において、散歩の外注やミールキットを通じた食事管理などをはじめとした“飼育の効率化”を目的としたサービスの拡充が見込まれる。ペットの飼育に対するハードルが下がれば、多くの人の生きがいや生きる喜びの維持においてペットの存在はより大きなものとなるだろう。飼育者一人一人がパートナーとしてのペットと向き合い、心を通わせることで、動物愛護法の目的にある「人と動物の共生する社会の実現を図ること」ができる時代が来ることを切に願う。

※1 ペットフード協会「平成29年(2017年)全国犬猫飼育実態調査」  ※2 総務省「2017年住民基本台帳人口要覧」0~14歳(総数)