住まいの価値は自分だけしか決められない
私が暮らす街は足立区の北千住というエリアです。北千住エリアは江戸時代より日光街道の宿場町として栄え、現在もその賑わいを残す街ですが、駅前再開発や大学誘致により、若い人たちが流入し活気が増したこと、都心へのアクセス性等が評価され、昨今人気が上昇しているエリアでもあります。最近では街を歩くと外国人の方や、芸術家やミュージシャンと思しき方もよく目にします。この街に漂う気取らない雰囲気が多様な人々を受け入れる土壌となっているのかもしれません。
さて、私自身もそんな魅力に惹かれて北千住に暮らしているわけですが、実は借りている部屋の家賃の高さが少し気になっています。先日、新宿駅まで電車で20分前後の都内某駅(以下、A駅)近くに暮らす知人と家賃について話をした際も、私が想定していた以上に知人の部屋の家賃が安く、自分は損をしているのではないかと少し不安になってしまいました。確かにA駅よりも北千住の方が都心部へのアクセス性は良いかもしれませんが、新宿や渋谷へのアクセス性は知人宅の方が良いですし、駅への近さ、部屋の広さ、部屋数、築年数などの住宅スペックも圧倒的に知人宅の方が上であるにも係わらず、なぜ私の方が高い家賃を払っているのか…。
そこで一体家賃はどのように決まるのかについて少し調べてみました。
こちらは不動産の鑑定評価に関する3つの方式についてです。
今回は上図の3つの方式を参考に自分の住まいについて考えてみました。
まず「原価方式」ですが、これは不動産の原価に着目したものです。不動産の原価というと大きく建物と土地に分けられます。建物については地域によって労務費や材料費等の単価が異なりますが、同じ東京都内であればそれほど大きな差異はありません。
一方で土地についてですが、こちらは東京都内でもエリアによる差が大きくなっています。国土交通省が毎年調査・公表している公示地価について住宅地の事例を見てみますと、北千住駅から400mの地点で㎡あたり約44万円(第一種住居地域)、A駅から400mの地点で㎡あたり約40万円(第一種低層住居専用地域)という事例があります。また、商業地の事例では北千住駅から190mの地点で㎡あたり約235万円(商業地域)、A駅から130mの地点で㎡あたり約88万円(商業地域)という事例もあります。傾向としては北千住の方がA駅よりも地価が高い傾向にあり、特に商業地の価格差が大きくなっています。北千住の家賃水準が高いのは、駅周辺の商業機能の成熟度合いが反映された結果なのかもしれません。
次に「比較方式」についてですが、これは類似の不動産の賃料事例に着目したものです。これに関しては賃貸住宅仲介サイトなどインターネット上に豊富に情報があります。そこから私の部屋と同等の条件の場合の賃料事例を確認してみたところ、確かに私の部屋の家賃よりもかなり安い部屋もありますが、契約更新のできない定期借家契約の条件があったり、家賃は安いものの管理費が異常に高かったり、安い部屋にはそれなりの理由があり、それを踏まえると私の部屋の家賃は高くも安くもなく妥当な家賃水準と言えそうでした。
最後に「収益方式」ですが、これはその不動産が将来生み出す収益に着目したものです。例えば3,000万円相当の価値がある不動産があったとして、年間利回り5%の収益を想定すると、月額賃料は12.5万円という試算ができます。価格査定や想定利回りには幅がありますのであくまで参考値となりますが、こういった試算と自分の住まいの家賃や想定取引価格などを比較してみても私が支払っている家賃が高すぎるということはなさそうでした。
以上、3つの価格評価方式により自分の住まいの家賃について考えてきましたが、結論としては、私が支払っている家賃は原価方式、比較方式、収益方式、どの観点からもある程度妥当性のある価格だと分かりました。知人宅と比較することで生じた「自分は損をしているのではないか」という不安はこれにより解消されました。
そしてもう一つ気づいたことがあります。それは「住まいの価値は自分だけしか決められない」ということです。いくら上記のように検証を繰り返したとしても、これは一般論に過ぎませんし、参照するデータによって結果も変わってきてしまいます。住まいの価格には多様で複雑な要因が絡み合っている上、同じ住居は世界に一つとしてありません。そのため比較検証をし始めると(認知的不協和を解消しようと)キリがなくなってしまいます。住まいの価値の感じ方は本当に人それぞれですから、何よりも自分自身がその住まいに関してどの程度満足しているかということの方がきっと重要なのでしょう。
住まいの価格は買うにしても借りるにしても決して安い金額ではありません。だからこそ自分が損をしていないか不安になり、他人の住まいや他の物件との比較をしてしまいがちです(私だけかもしれませんが…)。ですが、殊に住まい選びについて言えば、そういった比較に必要以上に時間をかけてしまうことこそが一番の損なのかもしれません。