新しい食スタイルの潮流を考える

2020年3月16日 / 主任研究員 原田利恵子

 “植物肉の市場が2030年には世界で9兆円を超える”。スイスの金融大手UBSが算出した世界の植物肉の市場予測である(※1)。
 植物肉とは、大豆などが主原料の植物由来の肉(Plant-Based-Meat)であり、昨年から今年にかけて、俄かに食の一大市場を形成しようとしている。連日のニュースでも植物肉の話題には事欠かない。アメリカでは「BEYOND MEAT(ビヨンドミート)」(※2)や「Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)」(※3)といったスタートアップ企業が台頭し、アメリカやカナダでは、マクドナルド、バーガーキングなどの大手ファーストフードチェーンもメニューに取り入れる動きが進んでいる(※4)。

 その流れを加速させたのは、昨今の環境問題意識の高まりである。世界食糧農業白書2016(FAO)によると、世界の温室効果ガス排出量の約21%が農業活動によるものであり、そのうち家畜の消化管内発酵 (牛のゲップなど)が 40%を占める(※5)。また、畜産業は、肥料製造のためのエネルギー消費や土地・水の利用などの環境負荷も問題となっている。こうした理由から、消費者にも肉の代替食品のニーズが高まり、より環境によいものを選択しようとする動きが広がっている。
 また、ベジタリアンやビーガンなどの完全な菜食主義ではないが、肉や魚を食べない食事を柔軟にとりいれるフレキシタリアンやパートタイムベジタリアンなどが欧米でトレンドとなり、植物肉を食べることが浸透してきている。

 翻って日本を見てみると、欧米とは少し状況が異なるのではないだろうか。日本はもともと欧米ほどの肉食文化ではなく、精進料理などの菜食料理や大豆の加工製品なども従来から存在する。こうしたことから、あえて植物肉を食べる必要性は高くないようにも思える。
また、植物肉をめぐっては、味や価格、加工の際に添加物が含まれる場合などもあり、これらの課題をクリアしていくことが求められる。
 一方、企業側では、日本ハムが一般市場向けの植物肉のハムやソーセージを3月に発売を開始したり、セブンイレブンが「ソイミートバーガー」を都内一部店舗で販売したりするなど、欧米の動きに追随するように、大手食品メーカーや小売、外食チェーンなどで植物肉を開発・提供する動きが進んでいる。私たち日本の消費者にとっても身近な存在になりつつあるのだ。

 このように、課題はありつつも普及が進む植物肉。商品そのものに対する是非は様々あるものの、その登場によってフレキシタリアンなど世界で新しい食のスタイルを広げたことは確かである。
 改めて生活者視点で考えると、健康志向は高まりを見せ、食生活を改善したいと考えている人は多い。若い世代にとっては美容にいいことやギルトフリー(罪悪感がない)であること、シニア世代にとっては健康や環境によいこと、また全世代にわたって“野菜をもっと食べたい”という意識は高まっている。
 こうした状況をふまえて私が期待するのは、世界や日本での一連の機運の高まりをきっかけとして、単に商品を植物肉に置き換えるということだけでなく、ビーガン食がより身近になったり、従来からの野菜中心の日本食を見直したりなど、食の選択肢が広がっていくことである。昨日は肉をたくさん食べたから今日はベジタリアン食にしようなど、個人がその時の自分の体調や気分、ライフスタイルに合わせて、多様な食を自由に楽しむスタイルが広がり、より健康で豊かな食生活につながっていく可能性があるのではないだろうか。また、同時に、食という自分に深くかかわる行為だからこそ、自分がこれから何を食べていくのか、環境への配慮や自分ができることを改めて考える機会になることを願っている。

<出典・脚注>
※1:UBS MARKETS INSIDER NEWS (Jul 19,2019)
※2:BEYOND MEAT(ビヨンドミート):https://www.beyondmeat.com/
※3:Impossible Foods(インポッシブル・フーズ):https://impossiblefoods.com/
※4:バーガーキングは、「インポッシブル・バーガー」を全米の店舗で販売中。米マクドナルドは、Beyond Meatハンバーガーのテスト販売をカナダの52店舗に拡大することを発表(2020.1)。米スターバックスは、202年3月からカナダの約1500店舗でビヨンドのパティを挟んだサンドイッチの販売を開始等。
※5:国際連合食糧農業機関(FAO)世界食糧農業白書2016