映画鑑賞料金値上げに思うこと

2019年9月18日 / 研究員 六鹿 マリ

 今年の6月1日から、大手シネコンの一部で映画鑑賞料金の値上げが始まった。シニア割引やレディースデーなどのサービス料金が100円引き上げられたほか、一般料金についても1800円から1900円と、100円の値上げとなっている。2014年4月の消費税引き上げの際にも、一部の映画館で前述のようなサービス料金の改定が行われたが、一般料金が値上げされたのは26年ぶりのことだ。これまでも日本の映画鑑賞料金は世界一高額だと言われてきたが、このニュースをきっかけに映画館離れを危ぶむ声がさらに聞かれるようになったと感じる。
 実際に映画館離れは進んでいるのだろうか?NTTコム リサーチの調査(注1)によれば、直近1年以内(2018年5月~2019年5月)に映画館で映画を鑑賞した人は全体の40.3%である。今回5年ぶりに40%を上回ったものの、経年推移をみてみると、初回調査の2012年から緩やかな低下傾向が続き、2018年調査では過去最低の35.3%を記録した。映画館の入場者数や興行収入は、話題作やヒット作がどのくらいあるかに大きく左右されると考えられるため、映画館離れが進んでいるとは断言できない。しかしながら、少なくともこの調査結果を見る限り、映画館での鑑賞人口(動員数ではなく、「映画館に行く」という行動をする人の数)が増加しているとは言い難いのではないか。
 その一方で、同調査で示された映画館でのひとりあたり年間鑑賞本数をみると、年間12本以上を鑑賞するヘビーユーザーの割合は10%弱で、過去調査から微増傾向にある。各年におけるヘビーユーザーの人数をみても、初回調査からの7年間でおよそ1.5倍に増加していることがわかる。
 つまり、映画館に訪れる人口自体は増加していないものの、こうしたヘビーユーザーによって昨今の映画興行の盛り上がりは支えられていると言えるのではないだろうか。そんなヘビーユーザーのひとりである筆者としては、100円程度の値上げはさほど気にならない。なぜなら、良いコンテンツにお金を払うことに喜びを見出しているからである。映画に限らず、いわゆるヘビーユーザーにはそういったタイプの人が多いのではないだろうか。
 しかし映画館にめったに訪れない層にとっては、一般鑑賞料金の値上げは足がさらに遠のく原因となることが予想される。ヘビーユーザーとの差は今後も開く一方になるだろう。
 多種多様な動画配信サービスであふれる今日においては、映画館どころかレンタルショップにすら足を運ぶ必要がなくなってきている。しかし、自宅で簡単に映画を観ることができる時代だからこそ、今後もリアルな映画体験の価値は廃れないのではないだろうか。この数年間で、映画館では4Dや爆音上映(注2)、応援上映(注3)といった様々な鑑賞の在り方が生まれてきた。今後さらに技術革新が進めば、映画館はますますアトラクション化していき、「そこでしかできない体験を提供する場」としての地位を強固にしていくのではないかと想像している。
 値上げが行われたとはいっても、各館で様々に設定されたサービスデー、サービス料金は健在だ。映画館が豊富にある地域に限って言えば、日によって複数の映画館を使い分けることで、常に割引料金で鑑賞することも可能だろう。映画館好きとしては、映画館で鑑賞する楽しさをひとりでも多くの人に知ってもらえれば嬉しい。そして自分自身も、これからも変わらない頻度で足を運び、その進化を見届けていきたい。

注1:NTTコム リサーチ結果 (No.244)  第8回 「映画館での映画鑑賞」に関する調査(2019年7月3日) https://research.nttcoms.com/database/data/002133/ (対象者は全国の10代~70代の男女、有効回答者数は3,278名。2012年から毎年同時期に実施しているアンケート調査の8回目。)
注2:「通常の映画用の音響セッティングではなく、音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、大音響の中で映画を見・聴く試み。大音響でなければ聴こえてこない幽かな音を聴くという、大胆かつ繊細な上映。」(爆音映画祭オフィシャルサイトhttp://www.bakuon-bb.net より一部抜粋)
注3:鑑賞中に観客が大声で声援を送ったり、劇中歌を合唱したりすることが認められている上映。多くの場合、コスプレやサイリウム持ち込みも可能であり、コンサートのような盛り上がりを楽しむことができる。