東京にとって2022年は歴史的な年として記憶される?
■2022年は時代の転換点の年になる?
2月のウクライナに対するロシアの軍事侵攻と、これに起因する世界経済の混迷の深まりなど、2022年は歴史に残る転換点として記憶されるだろう。もちろん、この世界情勢の変化は2022年になって突然出現したのではなく、それ以前の国際的な政治、経済、社会、技術などのさまざまな事象が複雑に絡まりながら経過した末のひとつの結果といえる。
日本においても、近年の社会経済の動きや人々の暮らしの変化が、2020年来のコロナ禍(新型コロナウイルスによる感染拡大に起因する社会的事象)と相まって、大きなうねりとなって顕在化しているように思う。例えば、「人口の動き」に着目すると、2022年は人口が集中する東京都にとってひとつの転換点になると思われる。その転換点とは・・・。
■2022年、人口増が続いていた1都3県および東京都が人口減少へ!
総務省が毎年8月頃に公表する「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」データを用いて、まず1都3県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の「総人口(日本人+外国人)」をみると(図表1※1)、いずれも2021年と2022年の一年間で人口が減少している。特に、東京都の人口減少率は埼玉県、千葉県、神奈川県よりも大きいことがわかる。
図表1 1都3県における総人口の2022年と2021年の比較
東京都について、特別区(以下、「都区部」と称す)と市部のそれぞれにおける一年間の「総人口」の増減をみると(図表2※1)、市部全体の人口が前年比で横ばいであるのに対して、都区部全体では▲0.5%と減少を示している。
その都区部をさらに詳細にみると、中央区、台東区、墨田区の3区では「総人口」が前年比で増加を示しているが、他の20区では減少している。特に、豊島区、新宿区、目黒区の「総人口」は、前年比で▲1%以上の減少を示している。
一方、市部では市ごとに前年比の人口増減に差異がみられる中で、国分寺市や小金井市などおおむねJR中央線沿線の市では、この一年間で「総人口」が増加していることがわかる。
図表2 東京都・都区部と市部の総人口における2022年と2021年の比較
これまでみてきた2021年から2022年にかけて生じた東京都の人口減少は、東京都が公表している「(現在の)人口推計」(4月1日時点※2)においてもほぼ同様にみられる。
ところで、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(総務省)では、日本人と在日外国人を分けて集計している。図表3(※1)は、都区部における2013年から2022年までの日本人および在日外国人の人口の推移をみたものである。
図表3 東京都・都区部における2013年~2022年の日本人と在日外国人の人口の推移
この図からわかるとおり、新型コロナウイルスによる最初の感染拡大と緊急事態宣言の発出があった2020年を境に、都区部の在日外国人の人口は日本人よりも先行して減少している。
都区部の日本人についてみると、2013年から2019年にかけて順調に人口は増加していたが、2021年には人口増加が頭打ちとなり、2022年になって減少に転じている。
次に、「住民基本台帳人口移動報告」(総務省)にもとづいて、都区部における住民票の異動にもとづく転入超過、転出超過をみることにする。(図表4※3)
都区部では、年次にかかわらず進学や就労等を背景に15~29歳では転入超過となっている。ただし、20代の転入人口は年を追うごとに減少傾向にある。
一方、30代以降は年を追うごとに、転出超過(死亡含む)傾向にある。とりわけ、結婚・出産・子育てステージにあり、住宅一次取得層ともいわれる30代の転出傾向が年々強まっている。
このように、都区部全体の社会人口(転入人口―転出人口)は2020年以降減少している。
なお、2016年以降都区部の出生数が減少する中で死亡者数は微増傾向であり、総じて自然人口(出生人口―死亡人口)も減少していることも都区部の人口減少に寄与していると思われる。
図表4 2019年~2021年における東京都区部の転入超過・転出超過
■2年間のコロナ禍を経て都区部から周辺郊外への人口移動が顕在化した?
では、このような東京都あるいは都区部の「人口の動き」はなぜ生じたのだろうか。
まず考えられるのは、新型コロナウイルスの感染に対する不安感の増大と、度重なる緊急事態宣言による外出抑制を背景とする生活価値観や生活行動の変化である。
この点については、特に在日外国人の「人口の動き」がわかりやすい。すなわち、感染不安に加えて、コロナ禍に起因する就労・就学などの生活環境の面で大きな変化もあって、母国に退避(出国もしくは再入国ができない)したことで在日外国人が減少した、と考えられる。
一方、今般の日本人における「人口の動き」の背景には、働き方の多様化やデジタルメディア(オンライン)を介したコミュニケーションが浸透している中で、コロナ禍に伴う外出抑制が追い風となって定着した日常生活におけるリモートスタイルがあるとも考えられる。
このリモートスタイルの日常生活化は、自宅を職場化あるいは学校化することであり、多くの場合、住んでいる住居においては想定外の用途といえる。それゆえに、家族全員がリモートスタイルを享受するには、間取りの面で手狭になる可能性が高い。実際、緊急事態宣言時以降にマンションに居住する子育て中の共稼ぎ世帯のお父さんが、ベランダにアウトドア用のテントを張って在宅勤務をしている、という様子がメディアで話題になっていた。
このようにコロナ禍により生活行動の変化を余儀なくされたことで、人々の生活価値観やライフスタイル(生活様式)の変容が加速し、その“流れ”の中で職住の近接性や生活上の便利を多少犠牲にしても自然が多い場所、広い家に住みたい、という住まい方を見直す人が増えているのではないか。特に、都区部は郊外と比べて相対的に持ち家率が低いこともあって、人口の移動(転入、転出)がしやすい土壌にあるともいえる。
ただし、転居は生活行動圏の変更であり、家計も含めて家族生活に多大な影響が生じるので、外国人ほど即時的な変化は現れにくいと考える。加えて、都区部をはじめ東京都および近郊では、コロナ禍に関係なく近年、住宅価格・賃料が高騰の一途にあり(図表5 ※4)、転居先選びに時間を要すると思われる。
図表5 2008年~2022年の東京都における戸建て、マンションの価格指数の推移
以上をふまえると、コロナ禍にあって“三密(密集、密接、密閉)”回避がいわれた2020年から2022年にかけての「人口の動き」は、転居先選びに必要な「時間」とも解釈できる。そして、このようにコロナ禍前後の多くの社会・経済の要因が絡み合った結果、2022年の東京都全体、特に都区部における人口減少という「人口の動き」が顕在化したのではないか。
■都区部の人口減少は郊外地のチャンスとなるか
国立社会保障・人口問題研究所が2018年に公表した将来人口推計によると、人口のピークは1都3県で2020年、東京都で2030年、都区部で2035年と推計している。実際、2021年まで人口が順調に増えていた都区部では、10年以上も前倒しに人口減少が生じたことになる。
おそらく、この東京都や首都圏の「人口の動き」については、今後さまざまな視点からのレポートが発表されるだろう。
この都区部の人口減少が一過性のものなのか、それとも都区部といえども人口減少時代に入る予鈴となるのかを今後もつぶさに観察しつつ、一方で郊外においては人口増加の機会となるのか注視していきたい。
※1 図表1~3は、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(総務省)にもとづき東急総合研究所で作成。
なお、2013年以前は3月31日現在、2014年以降は1月1日現在の集計となっている。
※2 「人口推計」(都道府県の各自治体)は、直近の国勢調査の人口データにもとづき、その後の住民基本台帳上の転入・転出の累積を加味して推計した、現住民の人口のデータ。
※3 図表4は、「住民基本台帳人口移動報告」(総務省)にもとづき東急総合研究所で作成。
※4 図表5は、「不動産価格指数」(国土交通省)にもとづき東急総合研究所で作成。