「パーソナルカラー診断」を通じて「人」がもたらす提供価値を考える

2022年12月28日 / 研究員 古屋 実華子

■「パーソナルカラー診断」 「人」による診断に加えて「AI診断」も登場
 人が化粧品や服飾雑貨等を購入する際には、一般的に素材や価格、サイズなどさまざまな要素を検討するといわれている。その中で、自身の生まれ持った肌や瞳、髪、唇の色や質感等をふまえて「自分に似合う色」、すなわち「パーソナルカラー」もひとつの検討要素になると考えられる。
 例えば、パーソナルスタイリングサービスを提供する「ドローブ」が行った調査※1の結果をみても、「パーソナライズサービス(パーソナルカラー診断、骨格診断等)に関する興味」を問うと、「パーソナルカラー診断に興味がある」と回答した人は全体の74.5%と最上位であることや、ライフスタイル関連の情報を発信する「Fastrend」が行った調査※2の結果では、「自分のパーソナルカラーに合ったメイクへの意識」を問うと、「意識している」と回答した人は全体の68.1%であることから、人は化粧品や雑貨等を購入する際に「パーソナルカラー」を検討要素のひとつにしていることがうかがえる。
 その最適な「パーソナルカラー」を探し出す上で、好き・嫌いといった主観ではなく、理論的で客観的なアプローチとして「パーソナルカラー診断」というものがある。この「パーソナルカラー診断」では、これまで有資格の「人」が行うことが一般的であったが、昨今ではこの領域にも「AI(人工知能)」による診断が登場してきている。

 なお、一般的にパーソナルカラー診断でいう「似合う色」とは、下記のように、肌の色味と得意な色の特徴を、四季に例えて4つの分類に定義されている。※3、※4
 ・イエローベース春:黄み肌、春の花々のような明るく鮮やかでカラフルな色が得意
 ・ブルーベース夏 :青み肌、梅雨(夏)の紫陽花のような柔らかくて優しい色が得意
 ・イエローベース秋:黄み肌、秋の紅葉を連想させる深みのある落ち着いた色が得意
 ・ブルーベース冬:青み肌、冬の夜空やイルミネーションのようなはっきりした色が得意

■実際に「パーソナルカラー診断」を試してみた
 筆者は実際にパーソナルカラー診断を、「AI」による方法で2つ、「人」による方法で1つ試してみた。「人」と「AI」の診断結果にはどのような違いがあるのだろうか。
 「AI」による診断の一つ目に、化粧品ブランド「Visee(ヴィセ)」がオンライン上で行っている診断※5を試した。スマートフォン上で「Visee(ヴィセ)」のサイトにアクセスし、そのサイト上で自身の顔全体を撮影することで、「AI」によるパーソナルカラーが診断される。その結果、自身は「ブルーベース冬」であった。
 「AI」は手軽に体験できる利点がある一方、自分で撮影した写真は画像の質や照度などの撮影環境による影響が気になるとともに、診断結果の説明のみで物足りないと感じた。
 「AI」による診断の二つ目に、化粧品ブランド「KATE(ケイト)」が展開するAI診断機※6を試した。これは診断機側のカメラで撮影された顔写真から、「AI」が顔のパーツを分析して顔の印象を診断し、似合う色の化粧品が提案されるという仕組みである。ちなみにこのAI診断機は世界で一台しかなく、各地を巡回しながら、一定期間実店舗に設置されている。
 筆者の場合は「シャープ」「メリハリのある色が似合う」という診断結果であり、「Visee(ヴィセ)」の「AI」による診断結果である「ブルーベース冬」に類似の内容であった。なお、このAI診断機は実店舗に設置されているため、自らのスマートフォンで撮影する「Visee(ヴィセ)」の「AI」による診断よりも同一の撮影環境下で得られる客観的な診断結果として信用できると感じた。
 三つ目に、有資格の「人」による診断を試したところ、結果はやはり「ブルーベース冬」であった。診断方法は、商業施設の実店舗にある診断スペースにて、有資格者(「人」)と鏡の前に座った筆者が対面で行う。色の分類(春・夏・秋・冬)ごとに布が用意され、有資格者(「人」)から説明や質問を受けながら、筆者の首元に一枚ずつ布を当てて、丁寧に時間をかけて行われた。
 ここまで3つの方法によるパーソナルカラー診断を振り返ると、筆者の場合は「AI」による診断と「人」による診断に大きな差異はみられず、それぞれの診断過程の長所と短所を知ることができた。

■「人」ならではの提供価値とは?
 上述のように、現状では2つのパーソナルカラー診断のアプローチは、自身に似合う色を探索する人の客観的に知りたいというニーズ(「AI」による診断)と、主観・要望にもとづく解決策を探索したいというニーズ(「人」による診断)のそれぞれに対応してうまくすみ分けている、あるいは相互補完しているようにみえる。
 ところで、今後の技術革新によって、「AI」によるパーソナルカラー診断が、「人」による診断が有する提供価値に近づいていくと予想される中で、パーソナルカラー診断における「人」だからこそできる提供価値はどのようなことが考えられるのか。
 一例として、筆者の場合は診断結果が「ブルーベース冬」であるため、理論上、いくら好みであってもイエローベースの色は似合わないということになる。その点を有資格者(「人」)に相談したところ、実際に店頭の商品を手に取りながら、似合う色を顔周りに組み合わせることでイエローベースの色もなじみやすくなり、楽しむことができるというアドバイスを受けた。
 このように有資格者(「人」)との対面、会話による診断では、その場で受け手である筆者が納得する説明やアドバイスを得ることができ、この「納得感」がパーソナルカラー診断における「人」ならではの提供価値のひとつに考えられるのではないか。
 例えば、上述の「ドローブ」が行った調査※1では、「パーソナルスタイリング(パーソナルカラー診断や骨格診断等に基づいたスタイリング)を受けたい理由」と問うと、「プロのアドバイスを受けてみたい」という回答が全体の68.2%と最上位に挙げられていることからも、筆者の実感を裏付けていると思われる。
 パーソナルカラー診断に限らず、さまざまなサービス領域にも今後「AI」が進出してくることが予想されるが、筆者が実体験を踏まえて感じたことは、サービスを利用する人々は「AI」の長所を認めながらも、やはり「人(提供者)」がもたらす「納得感」に価値を見出すのではないかということである。
 今後、筆者を含めてサービスを利用する人々が「人(提供者)」に対して期待することとは何か、また、「人」による提供価値がさらに追究されていくことに注目していきたい。

【参考】
※1 ドローブ社調査「パーソナルサービスに関する実態調査」(2022年、n=450)
   https://yab.yomiuri.co.jp/adv/feature/release/detail/000000046000054174.html
※2 Fastrend調査「パーソナルカラーに関するアンケート」(2021年、n=250)
   https://trend-research.jp/fastrend/104346
※3 一般社団法人ICBI パーソナルカラー実務検定協会
   https://acb-color.com/about_personalcolor/
※4 「センスのいらないおしゃれの教科書」
   (渡辺 樹里著、KADOKAWA社、2022年)
※5 PR TIMES記事(2021年)
   https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000262.000041232.html
※6 WWD JAPAN記事(2021年)
   https://www.wwdjapan.com/articles/1259591