「令和」の時代における「プロ野球」と「沿線ビジネス」のあり方 ~前編:鉄道会社と球団経営~

2020年3月31日 / 研究員 高橋 孝太朗

 2月1日に「お正月」を迎えた職業がある。「プロ野球球界」である。

 2月1日のキャンプインをもってシーズンは事実上スタート、つまり「お正月」を迎えたのである。開幕を待ちわびているファンも多くいると思うが(私もその一人である)、今年は新型コロナウィルスの影響で、シーズン開幕の延期が決定している。いつになったらこの騒動が収束し開幕を迎えられるか・・・気がかりで仕方がない。

 昨シーズンのプロ野球全球団の総観客動員は史上初めて2600万人を突破した(約2654万人)。2005年と比較して約33.2%も増加し、プロ野球の観戦人気は近年熱を帯びてきている。

 現在、鉄道会社でプロ野球球団を経営しているのは、西武鉄道と阪神電鉄のみであるが、かつては多くの鉄道会社がプロ野球球団を経営していた。例えば阪急(現オリックス)、近鉄(オリックスに吸収)、南海(現ソフトバンク)、西鉄(現西武)、名鉄(現中日)、国鉄(現ヤクルト)がそうであり、そして東急グループもかつて「東急フライヤーズ」(現北海道日本ハムファイターズ)という球団を保有していた。

 ところで東洋経済2019年10月6日号の記事によると、鉄道会社(特に私鉄)による球団保有の狙いは以下の3点とのことである。
 (1)本拠地を沿線に構える事により鉄道の利用を促進
 (2)知名度向上による定住促進やイメージ向上(広告戦略)
 (3)娯楽施設の誘致により、商業施設なども含めた関連事業収入増との相乗効果の促進

 このモデルの源流は、阪急電鉄創業者の小林一三氏が1923年頃に執筆した『職業野球団打診』における、「沿線に野球場を持つ関東・関西の鉄道会社が野球の球団を保有し春・秋でリーグ戦を開催する。各鉄道会社は相当の乗客収入と入場料と得る」という記述によると考えられる。

 小林一三氏は、1924年に日本初のプロ野球球団である「日本運動協会」を引き継ぐ形で、「宝塚運動協会」を発足させて野球興行を実施した。この球団は1929年解散してしまうが、現在の日本プロ野球機構(NPB)の前身にあたる「日本職業野球連盟」が発足した1936年には、「大阪阪急野球協会」(後の阪急ブレーブス)を設立してこの連盟に加盟している。これらは野球文化を阪急沿線に根付かせるとともに、プロ野球というビジネスを通じて沿線活性化に役立てようとしたと考えられる。
(余談ではあるが、第1回全国中等学校優勝野球大会も阪急沿線の豊中球場に誘致・開催している。)

 しかしながら、上述したように現在では多くの鉄道会社が球団経営を手放している。観客動員数が伸び悩み、本業の鉄道事業への波及も希薄となり、球団運営そのものが赤字になったことなどが要因として考えられる。2004年末に消滅した近鉄バファローズは、当時近鉄本社から補填される10億円を含めても年間約40億円の赤字を計上しており、最終年度の年間観客動員数は12球団中11位(134万人)であった。

 だが近年の観客動員数の増加傾向を踏まえると、小林一三氏が考案した鉄道会社によるプロ野球ビジネスモデルの再興が期待できると考える。西武鉄道が所有している埼玉西武ライオンズの場合、2018年・19年とリーグ優勝した事もあり観客動員数は増加傾向(2017年度:167万人⇒2019年度:182万人)にあり、中でも若年層や女性客等の増加が大きなポイントとなっている。
 日経新聞2018年10月1日の記事によると、埼玉西武ライオンズのファンクラブの中学生以下が対象となる「ジュニア会員」が2018年度は前年比13%増の約2万2300人となった。また小学生以下全員にキッズグラブや野球キャップ贈呈するイベントを開催した他、来場した女性客全員にユニホーム等を配る女性限定イベントを実施するなど、新たなファン層を獲得する施策を着実に推移している。この様な努力が奏功して、2018年度の純利益は公表している9球団の中では最大の約16億円を計上した。

 またこの埼玉西武ライオンズにおける観客動員数の増加は、西武鉄道の運賃収入増収にも寄与していると推察できる。埼玉西武ライオンズの公表によると観客の約60%~70%が鉄道で球場に足を運ぶ為、仮に65%の観戦者が所沢駅―西武球場を往復(IC運賃、往復348円)したと考えた場合、19年度は少なくとも約6億円の運賃収入を計上し、2年前と比較して約4000万円増加した計算になる(東洋経済2019年10月6日 号を参考に試算)。また新宿や池袋等の都内から電車に乗られた方や、有料特急を利用した方が多くいた場合、増収入は上記試算以上の額となる。

 さらに鉄道収入だけではなく、地元や沿線の商業施設等の波及効果も見込まれる上に、若年層や女性が足を運ぶこと等により、沿 線の認知度の向上に寄与するものと考えられる。事実、西武鉄道の中期計画(2019年~2021年)において、埼玉西武ライオンズ本拠地のボールパーク化による運賃収入の増加と、沿線活性化が明記されている。

 このように鉄道会社による球団経営のビジネスモデルは今なお有効であると推察される。
では東急グループはこの流れに対してどの様に乗っていくべきであるか?そのテーマについては後日改めてこのコラムにて考察したい。(後日に続く)