「働く」と「暮らす」がバランスできる働き方の選択肢

2018年12月17日 / 副主任研究員 樺 幸世

 2015年に、女性が社会でその能力を発揮できるように「女性活躍推進法」が施行された。しかし、M字カーブが緩やかになってきたとはいえ、子育てが理由で、仕事を退職・中断することを選択する女性はまだ多い。
 東急総合研究所が行った、就労意欲のある無職の方を対象にした調査でも「以前働いていたが現在就労していない理由」で最も多かったのは「子育てを優先したかったから」である(図表:以前就労していて、現在就労していない理由)。

 さらに働きたい理由を聞いたところ、「収入」が最上位に挙げられ、次いで「生活に充実感が欲しい」「社会と繋がりたい」「自身を成長させたい」「仕事を通じて色々な人と関わりたい」と続いている(図表:収入のある仕事に就きたい理由)。

 今、このような「ライスワーク(生活費を稼ぐための仕事)」と「ライフワーク(生きがいとなる仕事)」の両方を追求するような、「暮らす」と「働く」をバランスする新しい働き方が増えてきている。

■自分の課題を社会課題解決に繋げる働き方
 近年、子育て世帯を支える便利な様々な商品、サービスが登場している。
 例えば、ベビーシッターマッチングの「キッズライン」、家事代行/家政婦マッチングの「タスカジ」、授乳服の「モーハウス」、子育て中の女性と企業とマッチングするサテライトシェアオフィス「トリスト」などである。
 いずれも子育てをするうえで自身が感じた不便さ、不満から転じて生み出された。つまり子育ての困りごとを自分だけの課題とするのではなく、社会の課題として捉えて解決しようと生まれた商品・サービスである。そしてこれらは、「共働きのマーケットの拡大に伴う、時間をお金で買いたい」というニーズと、「アイデアを実現させられるテクノロジー」があることによって成立している。今後もこうした子育て共働き世帯のニーズに対応した様々な商品・サービスの登場が期待され、さらに福祉や介護の分野にも展開されていくのではないか。

■シェアエコノミーを活用した働き方
 また子育て女性による働き方も、シェアリングエコノミーにより多様になってきた。
 例えば、著者の“ママ友”のカメラマンが近所に撮影スタジオを持った。そこでは、スタジオだけではなく、曜日によってベトナム風サンドイッチやチーズケーキの販売、料理教室や整体など、様々な業態の店舗に変化させているのだ。これにより、事業主としては家賃をシェアできるのでリスクを抑えられるとともに、お客様からみると曜日ごとに「店」が変わるのは楽しみになっているようだ。
 また、ロコワークを推進している「非営利型株式会社ポラリス」や「NPO法人代官山ひまわり」は、ロコ(地元民)ならではの情報やママ人材を活かしたワークシェアをしている。

 このように子どもを持つ親の働き方の選択肢が、少しずつではあるが増えてきている。
子どもたちにとっても身近に「働く」大人たちの姿があることは、多様なロールモデルを示し将来への問題意識を醸成するなどプラスに働くだろう。
 「働く」と「暮らす」のバランスを取りながら働ける働き方の選択肢がもっと増えていき、冒頭に示した就労意欲のある無職の方(無職のうちの76%を占める)の思いが活かせるようになると、結果的にみんなが暮らしやすい社会になるのではないだろうか。