「日本ワイン」の魅力に目覚める

2023年10月26日 / 主席研究員 米田 泰子

「日本ワイン」とは?
 ここ数年、日本のワインが海外でも人気になっている。筆者も、以前は、フランスやイタリア、アメリカのワインを好んで飲んでいたが、最近は日本のワインを飲む機会が増えた。
 先日は、広島サミットで各国首脳に提供された「トモエ・シャルドネ・クリスプ」という白ワインを飲む機会があった。フレッシュな香りとすっきりした味わいが美味しく、どこのワインかとラベルを見ると、製造者の名称(広島の企業)のほか、左上に「日本ワイン」の表示があるのに気がついた。「日本ワイン」とあえて記載されているのはなぜなのだろう?
 調べてみると、日本のワインには、「日本ワイン」と「国内製造ワイン」があるという。「国内製造ワイン」は、海外から輸入した濃縮ぶどう果汁などを使用して国内で製造されたワインや、ぶどう以外の果実を用いたフルーツワインを指すのに対し、「日本ワイン」は国産ぶどうのみを原料とし、日本で製造された純粋な日本産のワインを指す。国税庁が定める「果実酒等の製法品質表示基準」によって基準が設けられ、2018年から適用されているという。2018年のデータでは、国内で製造されているワインの約2割が「日本ワイン」だ。

「日本ワイン」に使われるぶどう品種
 それでは、「日本ワイン」には、どのようなぶどうが使われているのだろう。国税庁の資料(2018年)によると、日本で最も生産量が多いのは「甲州」(全体の16%)、ついで「マスカット・ベーリーA」(同14%)、「ナイアガラ」(同13%)、「コンコード」(同9%)が続く。このうち「甲州」「ナイアガラ」は白ワイン用、「マスカット・ベーリーA」「コンコード」は赤ワイン用となる。フランスやアメリカのワインは、赤ワインであれば「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「メルロー」「シラー」「カベルネ・フラン」、白ワインであれば「シャルドネ」や「ソーヴィニヨン・ブラン」などが有名だが、使われているぶどうは欧米のものとは品種の異なるものが多いようだ。
 日本ではじめて産業としてワインがつくられたのは明治初期の1870年代という。フランスで学んだワイン醸造の技術をもとに、山梨県で「大日本山梨葡萄酒会社」が設立された。当初は、フランスやアメリカのぶどうの苗木が持ち込まれて栽培された。しかしこうしたぶどうは、日本の気候には適さなかった。そのため、降水量が多く1日の寒暖差がそれほど大きくない日本の気候に合うぶどうの品種が開発されてきたのだという。
 なかでも山梨県甲州市勝沼地区が原産地の「甲州」(白ワイン用)と、新潟県が原産地の「マスカット・ベーリーA」(赤ワイン用)は「日本ワイン」のぶどうの代表的な存在だ。この2種は、フランスに本拠をおくワインの研究機関であるO.I.V.(International Organization of Vine & Wine)の認可を受けている(甲州が2010年、マスカット・ベーリーAは2013年に登録)。これによって、ヨーロッパに輸出する際に、品種名もラベルに記載することができる。ワインを選ぶ際には、どのようなぶどうの品種が使われているかを参考にすることも多いと思うが、ヨーロッパでも「甲州」「マスカット・ベーリーA」といった日本由来のぶどうの認知が広まりそうだ。ちなみに最近では、北海道池田町という冬の寒さの厳しい地域で栽培されている「山幸」(赤ワイン用)が、2020年にO.I.V.の認可を受けて話題になったという。

「日本ワイン」の産地
 日本国内で、最も「日本ワイン」の製造量が多いのは山梨県だ。2018年のデータでは、日本全体の約3割の生産量をほこる。ついで多いのが長野県、そして北海道、山形県で、この4道・県で「日本ワイン」の生産量の約8割(77.7%)を占める。それぞれの地域で、使われているぶどうの種類が異なっているのも興味深い。山梨県は「甲州」(白)が最も多く、長野県は「コンコード」(赤)、北海道は「ナイアガラ」(白)、山形県は「マスカット・ベーリーA」(赤)「デラウエア」(白)の割合が高い。それぞれ各地域の気候や土地質にあっているということだろう。
 ワインを含むすべての酒類の原産地に関しては、1994年に「地理的表示(Geographical Indication)」制度が国税庁によって制定されている。「正しい産地」であること、「一定の基準」を満たした品質であることを保証するための制度だ。産地からの申請に基づいて国税庁長官が指定を行うが、指定を受けるためには、その産地ならではの酒類の特性が明確であること、その特性を維持するための管理が行われることが必要となる。指定を受けることで、産地にしてみれば「他との差別化」がはかれる。消費者にとっては、一定の品質が確保されているという「信頼性」のもとに購入することができる。ワインでは山梨県が2013年7月に初めて認定され、ついで、北海道が2018年6月に2例目として認定された。さらに2021年6月には、山形県、長野県のほか、大阪府でもワインの地理的認定が行われた。筆者は、大阪に「ワイン産地(ぶどう産地)」のイメージはなかったのだが、大阪平野をのぞむ丘陵地帯はぶどう栽培に向いているのだそうだ。

「日本ワイン」の楽しみ
 「日本ワイン」は、レストランや自宅で楽しむだけでなく、ワインを醸造するワイナリーに出かけるという楽しみもある。国税庁の資料によれば、2018年時点で全国331か所、奈良県(注)と佐賀県を除く各都道府県にワイナリーがあるという。代表的な産地である山梨県(85か所)、長野県(38か所)、北海道(37か所)のワイナリー数がもちろん多いのだが、幅広く全国に広がっている。ちなみに大阪のワイナリー数は8か所で、全国で7番目の規模となっている。
 ワイナリーでは、製造過程から貯蔵タンク、ワインセラーまで見学できるツアーを催しているところも多い。最近では、ワイナリーにレストランや宿泊施設、日帰り温泉を併設した複合施設もあるようだ。和食には日本酒というのが定番だが、和食と「日本ワイン」のマリアージュも魅力的だ。それぞれの地域ならではの食も楽しみにワイナリーめぐりをしてみると、自分好みの「日本ワイン」との出会いも期待できそうだ。

注:奈良県には2022年9月にワイナリーができている。
資料:国税庁「果実酒等の製法品質表示基準」 0633.pdf (nta.go.jp)
   国税庁課税部酒税課「国内製造ワインの概況(平成30年分)」令和2年2月
   国税庁「日本ワイン産地マップ」
   酒類の地理的表示一覧|国税庁 (nta.go.jp)