【緊急寄稿】 最終回 最新の人口動向(修正版)

2023年11月29日 / 主席研究員 岸 泰之

 緊急寄稿の最終回である本稿では、再び東急線沿線※1の人口構造(年齢構成)に着目して解説する。

要約
・東急線沿線の4つのエリアの年齢別人口構成、コーホート法を用いた人口流入・流出、そして昼夜間人口比率による地域特性から、「田園都市エリア」とその他の沿線3エリアは全く異なる傾向を有する。
・特に、世代交代が弱く、高齢化が進む「田園都市エリア」に対する「まちなおし=Reまちづくり」は喫緊の課題と言える。

 

 ■東急線沿線は首都圏の中では若年層が多いエリア
 図表1は、2023年の東急線沿線と首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の住民基本台帳ベースの年齢別人口構成比を示している。
 この図表から分かる通り、25~54歳までは東急線沿線の比率の方が首都圏よりも高く、65歳以上では反対に首都圏の比率の方が高くなっている。
 つまり、東急線沿線は首都圏の中でも若年層が多く、高齢化については相対的に進んでいないと言える。
 なお、一番大きな“山”は、いわゆる“団塊ジュニア世代”である※3。
 

      【図表1】2023年の総人口(日本人+外国人住民)の年齢構成比 ※2
 
    

 

 次に東急線沿線を4つのエリア※4に分けて、2023年時点の年齢別人口構成をエリア間で比較する(図表2)。
沿線都区部の「渋谷・山手エリア」「池上・多摩川エリア」、そして東横線沿線の郊外である「東横エリア」は、ほぼ同じような年齢別人口構成比を示している。しかしながら、田園都市線の郊外である「田園都市エリア」では、他の沿線3エリアよりも10代および50歳以上の構成比率は高いものの、25~49歳の構成比率は低いというように、他の3エリアとは異なる傾向を見せている。
 

      【図表2】2023年の東急線沿線4エリアの年齢構成比 ※2
 
    

 

 ■「田園都市エリア」の人口動態は他のエリアとは異なる
 上述の「田園都市エリア」と他の沿線3エリアにおける年齢別人口構成の差異について、コーホート法という手法を用いて人口動態(当地への人口の流入、当地からの流出)の視点から少し堀り下げたい。
 なお、コーホート法とは、ある時点の特定年代(世代)の人口規模(塊=コーホート)に着目し、前後の一定期間における人口増減をみるものである。(例えば、2018年時点の20~24歳の人口が30万人で、5年後の2023年時点で35万人であれば5万人が流入とみなし、25万人であれば5万人が流出とみなす)
 図表3は、コーホート法を用いて東急線沿線全体と首都圏の人口動態を見たもので、いずれの地域でも20代が流入していることが分かる。ただし、その流入の規模は首都圏よりも東急線沿線全体の方が大きい。
 

      【図表3】コーホート法による東急線沿線の2023年の人口動態 ※2
 
    

 

 図表4では、東急線沿線の4つエリア別に見ており、「田園都市エリア」以外の沿線3エリアでは20代の流入規模は大きいものの、30~40代の一定数が継続的に流出していることが分かる。反対に、「田園都市エリア」では20代の流入規模は他の沿線3エリアと比較して小さいものの、30~44歳では規模こそ小さいながらも持続的に流入している。
 このように、人口動態の視点から見ても、「田園都市エリア」は他の3つのエリアとは異なる傾向を有していることが分かる。
 

      【図表4】コーホート法による東急線沿線4エリア別の2023年の人口動態 ※2
 
    

 

 そこで、東急線沿線にあって他のエリアとは異なる様相をみせる「田園都市エリア」に着目し、2020年の国勢調査(総務省)の「人口移動集計」を用いて、同エリアを構成する町田市、横浜市緑区・青葉区・都筑区、川崎市高津区・宮前区、大和市の7市区における20代と30代の人口動態(2015年と2020年の居住地の状況)を詳しく見ることにする。
 まず20代の人口動態をみると(図表5)、横浜市青葉区では他の市区町村から移動する人口(流入人口)よりも他の市区町村に移動する人口(流出人口)が大きく、差し引きで千人以上のマイナスとなっている。同様に、町田市や横浜市都筑区においても、20代では流出人口が流入人口を上回り、差し引きマイナスとなっている。
 反対に、川崎市高津区をはじめ大和市、川崎市宮前区および横浜市緑区では流入人口が流出人口を上回っている。
 

      【図表5】「田園都市エリア」における市区別の20代の人口動態(2015年-2020年) ※4
 
    

 
 次に30代の人口動態をみると(図表6)、横浜市青葉区では依然として流出人口が流入人口を上回っている。
 興味深いのは川崎市高津区の人口動態であり、20代では大幅に流入人口が流出人口を上回っているが、30代では流出人口の方がおよそ千人上回っている。
 なお、他の5市区では流入人口が流出人口を上回っている。
 

      【図表6】「田園都市エリア」における市区別の30代の人口動態(2015年-2020年) ※4
 
    

 

 さらに、20代と30代のいずれにおいても流出人口が流入人口を上回っている横浜市青葉区に絞って、2015年から2020年にかけて移動(流出)した人※5をベースに、流出先の市区町村の比率をみると(図表7)、主に同区と隣接または近隣の市区が挙げられる。
 20代においては、世田谷区をはじめ川崎市宮前区・高津区といった田園都市線沿線の上り方面、あるいは東横線沿線の横浜市港北区をはじめ、その上り方面に当たる川崎市中原区、大田区、品川区、目黒区といったように、都心方面に広く分散しながら流出している。このような人口動態の背景には、20代が有する職(学)住近接指向や都心指向があるものと推察される。
 一方、住宅一次取得層といわれる30代においては、川崎市宮前区・高津区や世田谷区といった田園都市線沿線の東京都心側(上り方面)に移動(移住)するタイプと、町田市をはじめ横浜市緑区・都筑区や川崎市麻生区のように隣接する市区に移動(移住)するタイプに分かれるようだ。いずれのタイプにおいても、これまでの生活行動圏を前提に求めやすい住宅価格(賃料)、そして職住の物理的・時間的な距離感の容認度合いによって、このような居住地選択になっているものと推察される。
 

      【図表7】横浜市青葉区から流出(移動)した20代と30代の居住地(2015年-2020年) ※4、※5
 
    

 

 ところで、20代および30代における人口動態、すなわち居住地選択の背景、動機にあると考えられる「職(学)住」の物理的・時間的な距離感に関連して、東急線沿線の4エリアの地域特性の一側面として昼夜間人口比率※6を見ておきたい(図表8)。
 「田園都市エリア」以外の沿線3エリアはいずれも110%以上、すなわち常住人口よりも就学・就労で訪れる昼間人口の方が多い「住宅・業務混在地」という特性を示している。
 一方、「田園都市エリア」の昼夜間人口比率は85%と、就学・就労で他の地域に流出する「住宅地」という特性を有していることが分かる。
 つまり、昼夜間人口比率から「職(学)」と「住」の地理的な位置関係を見ると、「田園都市エリア」に居住する人は「職(学)住分離」型のライフスタイルに、その他沿線3エリアに居住する人は「職(学)住近接」型のライフスタイルとなっているのではないかと想定できる。
 

      【図表8】東急線沿線4エリアの昼夜間人口比率 ※6
 
    

 

 ■「田園都市エリア」の高齢化が加速している
 これまでみてきた東急線沿線における人口動態(流入・流出)を踏まえた上で、年齢区分ごとの人口の推移をみることにする。ここでは、特に生産年齢人口(15~64歳)と老齢(65歳以上)人口の推移に着目する。
 生産年齢人口(15~64歳)の推移を東急線沿線の4エリア別にみると(図表9)、「田園都市エリア」では、この10年間でほぼ横ばいで推移している。これまで見てきたように、「田園都市エリア」では、30代以降で流入はあるものの、20代では大きな流入がないこともあり、これらの年代を含む生産年齢人口が停滞していると考えられる。ただし、コロナ禍後の2020年以降には生産年齢人口は若干持ち直し始めているようだ。
 「田園都市エリア」以外の沿線3エリアでは、20代の流入が大きいものの35~49歳は少なからず流出していることもあり、近年は生産年齢人口の増加は頭打ちとなっている。
 

      【図表9】東急線沿線4エリアにおける生産年齢人口(15~64歳)の推移 ※3
 
    

 

 老齢(65歳以上)人口の推移を見ると(図表10)、「田園都市エリア」では他の沿線3エリアと比べてこの10年間で顕著に増加していることが分かる。
 反対に、東急線沿線の都区部エリア(「渋谷・山手エリア」「池上・多摩川エリア」)では、老齢人口の伸びが止まり、むしろ下降する様相をみせている。
 

      【図表10】東急線沿線4エリアにおける老齢人口(65歳以上)の推移 ※2
 
    

 

 ■住まう街選びのカギは職住近接指向、ライフイベント・ライフステージ?
 以上に示したデータにいくつかの補足的・予備的な仮説を交えながら、「田園都市エリア」とその他の沿線3エリアの「人口の動き」の差異について以下のように整理する。
・進学・就職のステージにある20代は、職(学)住近接ニーズや都心指向を有する故に東京都心や横浜都心にアクセスしやすい場所、例えば「住宅・業務混在地」に住みたいと考えている。その結果、「田園都市エリア」の一部の市区では、居住していた20代の一部は都心方面に流出する傾向がみられる。その反面、他の沿線3エリアには「田園都市エリア」を含む他の市区町村から流入する20代は多い。
・結婚・子育て、住宅取得のステージに入る30代以降になると、職住近接が希望だが、住環境・子育て環境、生活コスト(住宅価格や賃料等)を考えて、郊外住宅地も「住みたい」選択肢に入る。その結果、「田園都市エリア」に流入する30代が一定数見られ、他の沿線3エリアでは30代が流出している。
・高度経済成長期やバブル景気の際に、住宅一次取得層といわれる20~30代が良質な住環境を求めて、開発が進む郊外に位置する「田園都市エリア」に持続的に流入し、定着してきた。その人たちが時間の経過とともに加齢したことで、今日高齢者が急増している。同エリアでは今なお20~30代の流入が若干あるが、他の沿線3エリアと比べて若年層の比率は低く、相対的に高齢化率が上昇しており、世代交代は進んでいない。
・他の沿線3エリアは、若年層の流入による世代交代と外国人流入により、年齢別人口構成は安定的に推移している。
 

 ■「田園都市エリア」でコンパクト&スマートなReまちづくり
 国立社会保障・人口問題研究所が2018年に公表した将来人口推計では、東急線沿線全体の人口ピークは2035年がピークだが、「田園都市エリア」では2025年とまもなくピークを迎えることになる※7。しかし、本稿の第3回で記述したように、現実的には思いのほか東急線沿線において人口減少が早まる可能性がある。そのようなトレンドの中で、東急線沿線においても急伸する「高齢化社会」と相まって、地域での生活に密着した社会課題(例:高齢ドライバー問題、地域の“足”であるバス網の問題等)が今後益々深刻なものになると推察される。
 筆者の個人的な見解としては、10~20年後を見据えて特に「田園都市エリア」においては、産官学民が一体となって駅を中心としたコンパクトシティの礎を築き、その上でスマートシティ(都市におけるデジタルトランスフォーメーション)の仕組みを導入し、再び日本で先端的なまちづくりを実現することが望ましいと考える。これこそが未来の東急線沿線の「地域価値」につながる、成熟した都市・街における「まちなおし(=Reまちづくり)」と言えるのではないか。
 

※1 「東急線沿線17市区」とは、東京都の品川区、目黒区、大田区、世田谷区、渋谷区、町田市、神奈川県横浜市の神奈川区、西区、中区、港北区、緑区、青葉区、都筑区、同川崎市の中原区、高津区、宮前区、同大和市を指す。
※2 図表はいずれも、総務省公表の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」に基づき東急総合研究所が作成。
※3 団塊ジュニアとは、団塊の世代(1947年~1950年生まれで、図表1では70~74歳に該当)の子ども世代で、一般的には1971年~1974年生まれの人の集団を指す。就職時期がバブル景気後の経済不況期に当たり、その人口ボリュームと相まって就職難となり、「氷河期世代」とも言われる。
※4 東急線沿線4エリアとは、東京都目黒区、世田谷区、渋谷区からなる「渋谷・山手エリア」、東京都町田市、神奈川県横浜市緑区、青葉区、都筑区、川崎市高津区、宮前区、大和市からなる「田園都市エリア」、神奈川県横浜市神奈川区、西区、中区、港北区、川崎市中原区からなる「東横エリア」、東京都品川区、大田区からなる「池上・多摩川エリア」を指す。
※5 国勢調査・人口移動集計(2020年、総務省)に基づき、東急総合研究所が作成
※6 2015年から2020年において、横浜市青葉区内で移動(移住)した人を除いた、横浜市青葉区から他の市区町村に「移動した」の人をベース(全体)として、移動先の市区町村の比率を算出している。
※7 国勢調査・従業地・通学地集計(2020年、総務省)に基づき、東急総合研究所が作成
   なお、昼夜間人口比率100%超とは、昼間人口が常住(夜間)人口を上回る状態を示し、他地域から通勤通学により流入超過を意味する。同100%未満とは、反対に通勤通学により他地域に流出超過を意味する。
※8 2023年11月15日現在、国立社会保障・人口問題研究所から2020年国勢調査等にもとづく最新の将来人口推計は公表されていないが、同研究所のホームページには2023年内に公表予定としている。
 

 ■補足 「人口」に関する公的統計データの解説
 国や自治体などが公表する人口に関する統計データ(公的統計データ)は、総務省関連のもの(4種類)と、厚生労働省関連のもの(2種類)とに大別される。これらの「人口データ」について、簡単に解説をする。

 《総務省関連》
 ①国勢調査にもとづく人口
 総務省が5年に1回行われる悉皆(全数)調査で、「調査員又は調査員事務を受託した事業者」という第三者が「居住を認めた人」に対して調査を依頼し、実施する。その回答者数が「人口」となる。
 また、当地に居住する人を集計した「(常住)人口」の他に、学校や就業の所在地単位で人の規模を集計(従業地・通学地集計)した「昼間人口」という指標もある。
 さらに10年ごとに実施される調査(直近の2020年調査はこれに該当する)では、5年前の居住地と現住地との間で移動(移住)した人の規模を集計した「移動人口」という指標もある。

 ②住民基本台帳にもとづく人口
 総務省は、毎年8月頃に「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を公表しており、その中で各自治体が受け付けた住民票の届けにもとづく住民基本台帳上の毎年1月1日時点の人口を示している。
 2012年7月に試行された「住民基本台帳法の一部を改正する法律」により、2013年以降は「日本人」「外国人」「総人口(日本人と外国人の合計)」が、市区町村別かつ性年齢別等が集計されている。
 なお、国勢調査結果における「人口」と、住民基本台帳にもとづく「人口」との間では、その規模に乖離が見られる。これは、国勢調査が上述のように第三者の確認にもとづく「居住実態」に即しているのに対し て、住民基本台帳ではあくまで本人の任意の届け出の件数の集計という、データの取得過程の差異に起因する。

 ③自治体が公表する(現在)推計人口
 各自治体は、ほぼ毎月の「(現在)推計人口」を公表している。これは、直近の国勢調査における「人口」を踏まえて、その後の住民票の移動(出生、死亡、転入、転出、国籍変更等)状況を加味して算出したものである。
 ただし、国勢調査実施からその結果の公表までの1~2年間については、推計値と実測値に齟齬が生じることがある。

 ④住民基本台帳人口移動報告における人口
 総務省(統計局)が公表する住民基本台帳人口移動報告は、住民基本台帳上の住民票の移動(出生、死亡、転入、転出、国籍変更等)による「人口移動」の状況に関する統計データである。特に年次集計(翌年の4月下旬ころ)では、市区町村別かつ年齢別の集計があり、各自治体における1年間の年齢別の転入超過もしくは転出超過を読み取ることができる。

 《厚生労働省関連》
 ①人口動態調査
 厚生労働省は、「人口動態調査」を毎月公表している。その内容は、各自治体に届け出られた出生、死亡、死産、婚姻、離婚の全数を対象としている。これらを都道府県および政令指定都市(東京都では、東京都区部)単位で集計している。

 ②将来人口推計
 厚生労働省が所管する国立社会保障・人口問題研究所が、直近の国勢調査の性年齢別人口等を参考にしながら長期(30年程度)または超長期(35年以上)の将来人口規模を市区町村単位で推計するものである。公表に際しては、将来の出生推移・死亡推移のそれぞれにおいて中位、高位、低位の3つの仮定を設け、それらの組み合せにより9通りの推計を行っている。
 2020年の国勢調査等にもとづく将来人口推計については、2023年4月に日本全国における2070年までのものが公表されているが、市区町村単位のものは本稿執筆段階(2023年11月)では未公表である。