これからの時間の使い方

2020年12月23日 / 主任研究員 原田 利恵子

コロナ禍で変わる時間の使い方

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今私たちの暮らしは大きく変わりつつある。中でも、時間の使い方が変わったという人は多いのではないだろうか。

 私自身も、外出する機会が減り在宅時間が増えたのだが、今度は食事づくりに追われ、家族で家事の分担を見直したりするなどの変化があった。このコロナ禍後に全国で行われた調査データをみても、「家の中でできる娯楽を楽しんでいる(67%)」(以下※1)、「インターネット通販や出前を利用するようにしている(45%)」、「動画や音楽などのストリーミングサービスを利用している(44%)」など、“おうち時間”を充実させたり、ネットサービスを活用したりしている人が多いことが分かる。

 このように生活者の時間の使い方には変化がみられるが、変わったのは生活行動だけではない。多くの人が外出自粛などにより、半強制的にこれまでにない体験をしたことで、新しい発見や気づきなどの意識の面においても変化が生まれている。

 

これまでの当たり前の「時間」 を変えられることに気づいた

 外出自粛により、これまで当たり前のように行ってきた多くのことが、できない事態となった。しかし、実際にそのような制約のある生活を過ごしてみると、「自分の生活には不要不急なものが多いと思うようになった(16%)」や「今までのやり方にこだわらずに新しいやり方やものに目を向けるようになった(26%)」(いずれも※2)など、無駄な時間への気づきや、時間の使い方を自ら変えられることを発見した様子がうかがえる。

 自分にとって本当に必要な時間を選別し、その時間を充実させたいというニーズはこれから高まっていくと考えられる。

 

ネットは思っていた以上に便利だが、リアルの大切さを改めて痛感

 ネットの利用が増えたことで、例えば「買い物はネットショッピングなどで済ますことが増えた(18%)」※3など、ネットで済ませられることはネットでよいという意識も芽生えた。また、エンターテイメント分野をみても、コロナ禍で登場したオンラインライブは、好きなカメラワークで自分好みの楽しみ方ができるなど、ネットならではの新たな価値も生まれ始めている。

 その一方で、これから増やしたいことは「旅行(45%)」や「商業施設への買い物(41%)」(いずれも※4)をはじめ、対面でのコミュニケーションの大切さを改めて認識する(「対面するコミュニケーションは大切だと思う(50%)」※4)など、リアルな活動が抑制されたことで、かえってその価値が生活者の中で高まっているようだ。

 

状況に合わせて行動したい気持ちが高まる

 現在も“第三波”といわれる感染拡大が続き、私たちはコロナとともに暮らす(“With コロナ” )生活を余儀なくされている。このような状況では、「混んでいる時間帯を避ける(37%)」※5など、感染リスクを回避して柔軟に行動したいという気持ちが高まり、今後も続いていくことが予想される。

 

時間を柔軟に使い自分の生活を最適化したいニーズへの対応

 このような生活者の気づきや意識は今後も継続し、新しい時間の使い方のニーズはより顕在化してくるだろう。

 これまでは、多くのことを時間や場所の制約があることを前提として行ってきた。しかし、これからの時間の使い方では、「個人の都合や生活スタイルに合わせて行動できること」、「いつでも柔軟に行動が選べること」、「自分の時間の充実化」といった視点が重要となってくる。

 そのためには、ネットとリアルをシームレスに行き来できる環境や、ネットをベースとしながらそこで足りない要素をリアルで満たすという行動に対応した仕組みが望まれる。具体的には、ネットでは時間や空間・数の制約を超えて個人に最適なサービスを柔軟に提供していくこと、リアルでは非接触を前提としながら、五感豊かな体験や空間を楽しめる要素を提供していくことなどが考えられる。

 

 このように“これからの時間の使い方”に着目して人々の生活意識や行動をとらえ直すことで、新たなサービスの“種”が見つかるのではないだろうか。生活者にとっても、時間や場所の制約を超えて時間をもっと自由に使うことができれば、より自分らしい暮らしが実現できるようになるだろう。

 このコロナ禍を契機として、そうした社会が実現することを期待している。

 

<引用・参考資料>

※1:博報堂生活総合研究所「第9回新型コロナウイルスに関する生活者調査」(2020.12調査)

※2:株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント(現、株式会社クロス・マーケティング)「新型コロナ経験後の生活意識調査」(2020.05調査)

※3:株式会社JTB総合研究所「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化および旅行再開に向けての意識調査(2020)」(2020.04調査)

※4:株式会社クロス・マーケティング「第11回新型コロナウイルス生活影響度調査」(2020.09調査)

※5:株式会社クロス・マーケティング「第8回新型コロナウイルス生活影響度調査」(2020.06調査)