カブトムシとドローン

2020年10月28日 / 主任研究員 森家 浩平

とある夏の夜の我が家の食卓での会話。「昼間に行った公園で、カブトムシが飛んでいたね。見た?覚えている?」と私が6歳の息子に尋ねると、息子はこう答えた。「ああ、あのドローンみたいに飛んでいたやつでしょ?」私はそれを聞いていささか驚くとともに、これまでの教育の仕方が間違っていたのかもしれない、と少しの自責の念を覚えた。振り返ってみれば、家族で虫をまともに飼った経験もなく、私が虫取りに子供たちを外に連れ出したこともない。自分の子供時代を振り返れば、虫あみや虫かごを携えて、近所の空き地で虫を探し、カマキリやバッタなどを自宅に持ち帰っていたというのに・・・。これは我が家だけの問題なのか、現代の虫を取り巻く事情がそうなのかが少し気になり、カブトムシとドローンについて、インターネットでデータを検索してみることにした。

日経クロステックの記事(※1)によれば、ドローンの出荷台数は推定で国内15万台となっている。おそらくこの台数には含まれていないであろうが、ECサイトや玩具店では、子供向けにもドローン型の玩具が発売されている。一方で、カブトムシ(クワガタ他の昆虫も含む)の飼育経験は、2017年に行われた調査(※2)によると、約22%となっている。かなり単純化した計算であるが、日本全国の世帯数(約5700万世帯)に、この22%を掛け算すると、1,254万世帯となる。ドローンの数の15万台は単年度数値であり、カブトムシほか昆虫の飼育経験の方の1,254万世帯は累積数になっていることから、根本的なデータの違いはあるものの、ドローンに接する機会よりも昆虫の飼育経験の方が多そうだ。また「素手で昆虫を触ることができますか」と問うた別のアンケート(※3)によると、6歳では約30%が触れると回答している。今回参考にしたデータからは、多少なりとも密接に虫と触れ合う経験をしている子供は、おおよそ20~30%程度と言えそうである。

虫と密接に触れ合う経験をしている子供たちは決して多いわけではないが、ドローンに接している子供はもっと数少ないと考えられる。カブトムシをドローンに例える言動はやはり一般的ではなさそうだ。これらのデータを通じて(普通はデータ等を見なくてもその様にすべきであるが)、私自身が現実を直視し、子供を自然に触れさせる体験をより多く提供しなければいけないと、考えを改めた。

ところで、ドローンの呼び名について、雄バチの羽音を由来とする説があるそうだ。今回の我が家のエピソードはハチではなくカブトムシであったわけであるが、虫の羽音という点で、子供の直感的な感覚は正しかったということか。

また、日本発のスタートアップであるスカイドライブ社は、物流用のカーゴドローンの開発に次いで、2023年には、プロペラを8つ搭載し、有人で飛行する“空飛ぶクルマ“を実用化しようと邁進中だ。これらの技術が実現し社会実装されて世に広く普及したならば、子供にとって、ドローンは今よりも親しみを持つ存在になるかもしれない。

 

 

出所:

※1 2020年1月15日 日経クロステックHP記事「世界のドローン出荷機体数は推定400万機、初予測の精度を高めた「あの制度」」

※2 2017年9月 アサヒグループHD 青山ハッピー研究所 アンケート「第649回ペットを飼っていますか?」

※3 2019年8月 学研教育総合研究所 幼児白書「幼児の日常生活・学習に関する調査」

2020年8月5日         総務省HP 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和2年1月1日現在)

2020年8月31日       CNET Japan HP記事 「「空飛ぶクルマ」のSkyDrive、有人飛行に成功-2023年の実用化を目指す」

ドローンスクールナビ 「意外と知らない?ドローンの語源と有名になったきっかけとは」