キャンピングカーであの町この町、に憧れて

2023年8月9日 / 主席研究員 岸 泰之

■旅先でキャンピングカーをみる機会が増えた
 ゴールデンウィークや夏休み、三連休などまとまった休みがとれるときには、筆者は自然の中で空気を吸いたくて都会を離れて旅に出る。行き先が関東甲信越や南東北ならば、渋滞というリスクはあるが、運転好きな筆者はマイカーを利用している。このような自動車旅をしていて、近年気づいたことがある。
 高速道路のサービスエリアや一般道沿いの「道の駅」はもちろん、ちょっとした観光地の駐車場でキャンピングカー※1を見かけることが多くなった。
 一般社団法人日本RV協会(以下、「日本RV協会」と称す)※2が発行している「キャンピングカー白書(2023年版)」によると、キャンピングカーの保有台数は増加の一途であり、2022年における保有台数は、10年前と比較しておよそ2倍となっている。

   図表1 キャンピングカーの保有台数
  
   出典:「キャンピングカー白書(2023年版)」(一般社団法人日本RV協会)にもとづき東急総合研究所が作成
 

■キャンピングカーに関心もつ人、利用シーン
 上記の白書などから、まずキャンピングカーに関心を持って販売店に訪れる人の年齢層をみると、50代を中心に40代以上が8割を占める。興味深いのは60歳以上がおよそ1/4を占めている点である。

   図表2 キャンピングカー販売店に来店する人の年齢階層
   
   出典:「キャンピングカー白書(2023年版)」(一般社団法人日本RV協会)にもとづき東急総合研究所が作成
 

 これはあくまで筆者の憶測であるが、この60歳以上の一部は、約40年前の1980年代後半に、自動二輪を駆って、時に当てもなく気ままに全国を回遊していた可能性がある。
 それゆえ、歳を重ねて定年(退職)を経て、時間的なゆとりもあって身体が動けるうちに再び気ままな全国を旅したい、という動機があるのではないか、と想像する。
 次に、日本RV協会のアンケート調査からキャンピングカーの利用イメージをみると、「観光地・温泉をめぐり、RVパーク※3に宿泊」や「大自然の中でアウトドアを味わい、キャンプ場に泊まる」が上位に列挙される。

   図表3 キャンピングカーによる旅行イメージ(単一回答)
   
   出典:「新しい時代のキャンピングカー活用について※4」(2021年一般社団法人日本RV協会)にもとづき東急総合研究所が作成
 

 この調査結果と旅先で筆者が見かけるキャンピングカー利用者の様子から、例えば40歳代では小学生の子どもがいる家族によるアウトドア体験とキャンプ場めぐり、子育ても一段落しているだろう50歳代以上では夫婦二人もしくは独り(と犬)による観光地・温泉をめぐるのんびり旅、といったキャンピングカーによる自動車旅行のシーンが目に浮かぶ。
 

■なぜキャンピングカーなのか
 ところで、観光地・温泉・キャンプ場めぐりや、大自然の中のアウトドア体験、ということが目的ならば、その移動手段はキャンピングカーではなくても、いわゆるSUV(多目的用途車)や車中泊が可能なミニバンなどの乗用車(レンタカーを含む)でもこと足りると思われる。それでも、キャンピングカーを選ぶ背景には、どのような動機があるのだろうか。
 「キャンピングカー白書(2022年版)」(日本RV協会)によると、キャンピングカーがもたらす「自由に行動できる機動性」「プライベートな空間」が特に期待されていることがわかる。

   図表4 キャンピングカーの有用性(複数回答)
   
   出典:「新しい時代のキャンピングカー活用について※4」(2021年 一般社団法人日本RV協会)にもとづき東急総合研究所が作成
 

 このうち、「自由に行動できる機動性」についてもう少し掘り下げるために、キャッピングカーを購入したことによる旅行スタイルの変化をみると、「時間を気にせず旅行できるようになった」「今まで行けなかった場所を目的にできるようになった」「コストを抑えた経済的な旅行が可能になった」が上位に列挙される。
 とりわけ時間的制約を考えない旅ができるということは、例えば朝焼けや夕焼け、あるいは満点の星空といった当地での一期一会の(自分だけの)風景を見る、といった「価値ある旅」が期待でき、それを積み重ねることでより豊かな人生を満喫することにつながると思われる。

   図表5 キャンピングカーによる旅行スタイルの変容
   
   出典:「キャンピングカー白書(2022年版)」一般社団法人日本RV協会にもとづき東急総合研究所が作成
 

 一方、キャンピングカーに「プライベートな空間」を求める背景には、非日常である空間に私的空間を持ち込むことで旅先も自身の疑似的な日常化(ある意味で多地域居住化)したい、という旅行に対する価値観の多様化の表れと思われる。
 一般的に、旅先での非日常的な空間や時間、異文化との接触が旅行の目的であり、醍醐味といわれるが、経済性も含めて過度に華美な施設・サービスへの忌避感があるのかもしれない。あるいは、コロナ禍後に再び増加しているインバウンドをはじめ局所的に観光客が集中することによるけんそうから逃れたい、という気持ちもあるのだろう。また、特に、犬(ペット)連れの旅行をする人にとっては、宿泊施設選びが難しいこともあり、ペットといつでも一緒にいられる「プライベートな空間」が必要なのだろう。
 なお、上記の調査結果で興味深いのは、回答者の1/4の人が「災害等への備えの意識が高まった」という点である。近年、住民避難が余儀なくされる深刻な風水害が多発しており、その際に問題となるのが、避難場所でのプライバシーである。その点で、仮にキャンピングカーごと安全な場所に避難することができれば、「プライベートな空間」を確保できる利点がある。
 このように、多様化する旅行スタイルのひとつとして広がりつつあるキャンピングカーによる自動車旅だが、夜間の長時間駐車の問題やごみ問題などから、例えば地方の道の駅ではキャンピングカーの夜間締め出しもあるようだ。つまるところ、所有歴の浅い人たちを中心にキャンピングカーによる自動車旅行者の利用マナーやルールづくりとその周知徹底、理解協力が求められることは言うまでもない。
 

■風来坊のように気ままな旅ができたら
 俳優高倉健の遺作である「あなたへ」※5という映画は、主人公がミニバンをDIYで改造してちょっとしたキャンピングカーに仕立てて、亡き妻の故郷に向かって旅に出る、というストーリーである。
 筆者はこの映画を何度も観て、もちろんそのストーリーや風景に感動する一方で、このように移動できる「住まい」とともに全国を旅することに強烈な羨望をもつようになった。
 まもなく還暦を迎えることもあり、このような自由気ままな旅、住所不定の風来坊のような旅、という夢を実現できたら、と脳内で楽しくシミュレーションしている。
 

※1 キャンピングカーとしては、トヨタ・ハイエースなどのバンタイプの改造車である「バンコン」、トラックベースの改造車である「キャブコン(フルコン)」、軽自動車を改造した「軽キャンパー」、それ自体動力を持たない牽引タイプの「キャンピングトレーラー」があり、近年ではミニバンを車中泊用に軽度に改造したものもある。キャンピングカーとして新車および中古で最も売れているのは、上記の中で「バンコン」タイプで市場のおよそ5割を占める。
※2 一般社団法人日本RV協会は全国のキャンピングカーの製造ビルダーやディーラー(販売)が加盟する団体。主な活動はキャンピングカーの普及、発展を目指し、文化の育成、環境の整備など様々な活動を行っている。(https://www.jrva.com/)
※3 「RVパーク」とは、「キャンピングカー保有者が快適に安心して車中泊ができる場所」を提供するために、日本RV協会が認定した車中泊スペース。
※4 地域:全国
   対象:日本RV協会ホームページ閲覧者
   方法:Webアンケート
   時期:2021年1月18日(月)~2月17日(水)
※5 2012年公開の降籏康男監督、高倉健主演の映画。制作・配給は東宝。