ショッピングセンターに求められる提供価値・機能とは

2019年7月17日 / 主席研究員 米田 泰子

 ショッピングセンター(以下SC)は、変化対応業といわれている。ネットでの買い物(EC)が浸透し、百貨店をはじめとするリアル店舗の売上が減少してきているなかで、施設数や売上規模が拡大し続けているのは、環境の変化に応じて提供する価値や機能を変化させてきているためといえる。本稿では、SCに求められている提供価値や機能を、SC大賞などの受賞SCから考えてみたい。

 2019年4月、「第8回日本SC大賞」(社団法人日本ショッピングセンター協会)が発表された。大賞(金賞)は、「二子玉川ライズ・ショッピングセンター」(東京都世田谷区)、銀賞は「ルクア/ルクアイーレ」(大阪府大阪市)、そして銅賞は「JRタワー(アピタ・エスタ・パセオ・札幌ステラプレイス)」(北海道札幌市)が、それぞれ受賞した。
 SC大賞は、「これからのSCのあり方を示唆し、社会的役割を果たしているSCを顕彰し、SC業界の一層の発展に寄与すること」を目的として、2003年に設けられた賞である。2年に一度、「マーケティング」「テナントミックス」「ディベロッパーとテナントのパートナーシップ」「ブランディング」「顧客サービス」「快適環境の形成と環境保全」の観点で、総合的に選考が行われる。
 今回大賞の「二子玉川ライズ・ショッピングセンター」は、「買い物以外の価値の提供を主眼に公園・オフィス・ホテル・住宅といった多様な機能を持つことが強みとなって、顧客に新しいライフスタイルを提案」しているとともに、地元と一緒に「さまざまなイベントや防犯活動にも取り組んでおり、二子玉川の街ブランドをともに高めている」点が評価された。
 過去大賞は、第1回「玉川髙島屋ショッピングセンター」(東京都世田谷区)、第2回「ルミネ横浜」(神奈川県横浜市)、第3回「ららぽーとTOKYO-BAY」(千葉県船橋市)、第4回「ラゾーナ川崎プラザ」(神奈川県川崎市)、第5回「阪急西宮ガーデンズ」(兵庫県西宮市)、第6回「テラスモール湘南」(神奈川県藤沢市)、第7回「御殿場プレミアム・アウトレット」(静岡県御殿場市)と、日本を代表するSCが選ばれてきた。いずれも、顧客に対する新しいライフスタイルの提案、顧客とのコミュニケーションづくりといった点が優れていることに加え、地域活性化や地域コミュニティの中心的な役割を担っている。
 顧客へのライフスタイル提案とともに、地域・街づくりの中心的な役割が、SCに求められていることの表れといえるだろう。

 このような優れたSCの表彰は、グローバルにも行われている。ICSC(国際ショッピングセンター協会)は、アジア・パシフィック、中国、ヨーロッパ、ラテンアメリカ&カリビアン、北米の各地域で、優れたSCを毎年表彰している。
 日本のSC大賞とは異なり、要件ごとにポイントが加算され、その点数で金賞・銀賞が決まる。具体的には、エントリー資料の出来栄えのほか「land use(土地利用)」「Design(デザイン)」「Development Goals(開発目標)」「Productivity/Financial Performance(生産性・財務実績)」「Innovation(革新性)」に対し、100点満点でポイントが加算される。
 日本がこれまで参考にしてきた北米エリアでは、2018年度中型SC部門の金賞を受賞した「The Pizitz」(アラバマ州バーミングハム)が、住宅やコーワーキングスペース、シアター、ギャラリーなどとの複合開発という点で注目される。
 ICSCはまた、各地域で「金賞」となったSCのなかから、世界中のSCのベスト・オブ・ザ・ベストを表彰する「VIVA」という賞も設けている。「VIVA」はVision(ビジョン)、 Innovation(イノベーション)、Value(バリュー) Achievement(成果)の頭文字をとったものである。
 2019年度の「VIVA」は2018年度の金賞SCから選ばれ、メルボルン(オーストラリア)の「Chadstone Shopping Centre」、ブリュッセル(ベルギー)の「Docks Bruxsel」が受賞した。「Chadstone Shopping Centre」は、1960年の開業以降、増床・リノベーションを繰り返し、現在ではオーストラリア最大規模のSCである。さまざまなニーズを満たす買い物施設のほかヘルスクラブやテーマパーク等、多様な施設を有している。「Docks Bruxsel」もまた、買い物、飲食、文化、娯楽、そしてオフィスも含めた生活機能を備えている。
 こうした海外の事例をみても、SCに求められる機能が、生活のさまざまな領域に関わっていることが確認できる。ECが浸透するなかで、SCに街の多様な機能が求められるようになってきているともいえる。

 近年、日本のディベロッパーの海外進出も増えている。中国やアセアン地域に数多く進出しているイオンモールのほか、三井アウトレットパークもマレーシアや台湾に進出している。日本のSCが、街づくりの中心的な役割を担うなかで、世界的な基準でも評価されるようになることを期待したい。
 
参考資料
日本ショッピングセンター協会 プレスリリース 2019年4月26日
『SC白書2019』日本ショッピングセンター協会2019年5月21日
ICSC Global Awards 各エリアCompetition Rules
ICSC Global Awards Winners 2019 VIVA Awards
ICSC Global Awards U.S. Design & Development 2018 Winners