スマートショッピング時代のリアル店舗のあり方

2019年11月5日 / 副主任研究員 菊地 幸子

 「ワコール3Dスマート&トライ」に行かれたことがあるだろうか。ワコールの次世代型インナーウェアショップである。同店は、3Dボディスキャナーで採寸し、接客AI(人工知能)を搭載したタブレットで商品を選ぶなど、ビューティーアドバイザーを介さずに自分に合う下着選びができることで話題だ。東急プラザ表参道原宿に第1号店を構えている。
 驚くことに、この3Dボディスキャナーは、わずか5秒で採寸が終わる。たった5秒のうちに、約150万ポイントの計測ができ、点と点の距離から、体のサイズや部分的な体積などを導き出せるのだ。体験者の中には、自身の3D画像を見て、ドラえもんのような体形にショックを受ける方もいるようだが、なるほど、筆者もなかなかにショックを受けた一人だ。しかし、たとえ「ドラえもん」でなくとも、採寸の際に販売員に体を見られる・触られることに抵抗がある人は多い。その点、このスキャナーはひとりで簡単に計測できることが好評の理由のようだ。また、数か月後に、前回より痩せた姿を再度計測するために来店するなど、既にリピーターも多いという。
 採寸データは記録され、店頭の専用タブレットでいつでも確認ができる。店頭に商品は並んでいるが、数は少なくショールームのような見せ方をしており、その場で購入もできるが、タブレットからの注文も可能だ。商品一覧から好みのデザインやシルエットを選ぶと、AIがサイズに合ったお薦め商品を提案してくれる。自宅への配送や、他店舗での受け取り、EC経由などの購入方法も選択できる。さらには、近々リリース予定のアプリにデータが連携されると、自宅に帰ってからこうした作業をゆっくり行うことも可能となる。
 このアプリ連携が既に進んでいるのが、三越伊勢丹の「YourFIT365」だ。婦人靴売場のサービスで、3Dスキャナーを使用した足型計測を行っている。こちらもわずか1分ほどで計測が終了する手軽さだ。計測したデータをアプリにつなぐと、取り扱い商品の木型を基にデータ化した靴の情報とマッチングさせ、足型に合った商品をレコメンドしてくれる。現状では8ブランド、約1,000種類の靴が対象となっており、適合率の高い商品から順に100足ほどの靴を写真付きで提案してくれる。気に入った商品をタップすれば、各店の店頭在庫を見ることもできるし、オンラインストアページに移行することも可能だ。その場で購入しなくても、十分検討してから好きなタイミングと場所で、よりシームレスに買い物ができる。

 このように、小売りの現場では店頭接客のデジタル化が進んでいる。しかし、これらは決して省人化のためではないし、Eコマースを伸ばすことが目的でもない。むしろ、デジタル化は店頭を活性化していくツールと捉えられる。まず、顧客にとっては採寸に行くという動機が生まれる。そして、自分の正確なサイズを知ることで正しいサイズ選びに対する興味が湧く。おのずとスタッフへの質問や会話が増え、滞在時間も長くなる。セルフとカウンセリングを組み合わせながら自由に購入を検討することができる。また、必ずしもその場で購入しなくてもよいため、接客を受けたら買わなくてはいけないというプレッシャーから解消され、心ゆくまで接客を受けることができる。ストレスのない買い物は楽しい体験として記憶に刻まれ、楽しい時間を過ごすためにまた店頭に行ってみようと思うかもしれない。
 販売員にとっても、採寸のデジタル化は「間違えてはいけない」という採寸に対する精神的負荷が軽減され、自信を持ってお薦め商品を提案できるようになる。また、店頭をショールーム的な役割とすると、在庫管理・品出しなどの業務が削減され、より接客に集中できるようになる。さらに、アプリを通してインタラクティブに顧客とつながることができれば、より深く、広く、長く顧客と接点を持つことが可能となる。結果的にEコマースの売上は伸びるが、それによって店頭が廃れることはない。むしろ、店頭の活性化とEコマースの売上は相乗効果とならなくてはいけない。事業者は、どちらか一方を強化すればよいわけではないし、そもそも店頭とEコマースを切り離して考えてはいけない。多様化する顧客の買い物ニーズに応えていくためには、店頭とEコマースの垣根を取り払って考えていく必要がある。顧客が望む買い物体験とは何なのか、そこに本気で向き合う事業者だけが これからの時代に生き残っていけるのではないだろうか。