スーパーマーケットの未来

2020年1月23日 / 副主任研究員 長尾 義弘

 スーパーマーケット業界を取り巻く環境変化は激しい。
 まず競合領域が拡大している。ドラッグストアは粗利益率の高い医薬品を収益源としながら、集客力の高い食品市場への参入に勢いを増している。最近は加工食品や飲料にとどまらず、惣菜や野菜などの生鮮食品も取り扱うようになり、一部のドラッグストアは食品の売上構成比が55%にまで達している。コンビニエンスストアも多種多様な生活サービスに加え、生鮮食品の販売が一般的になってきた。宅配事業や食品ECの市場規模も拡大傾向にあり、かつてはスーパーマーケットと区分されていた他業態が次々に参入してきている。
 一方生活者のニーズは、働き方や暮らし方の変化に伴い、これまでにないスピードで多様化が進行している。スーパーマーケットに対しても「品揃えの豊富さ」や「アクセスのしやすさ」、「商品の選びやすさ」など主軸の価値に加えて、ここ数年は「生活への提案」や「新しい発見、話題性」「スマートフォンとの連動機能」に至るまで様々な価値提供が求められるようになった。

 このような環境変化に対応すべく、スーパーマーケット業界でも、新たな取り組みが始まっている。キーワードは「AIによる効率化」である。具体的には、人手不足対策としてのロボット活用、需要と供給の適正化を目指したスマートシェルフによるダイナミックプライシング、スマートショッピングカートによる決済などである。
 この「AIによる効率化」の先進企業が、トライアルホールディングスである。同社は大型スーパーマーケット「TRIAL」を全国展開するトライアルカンパニーを中心とした小売業に、ITや物流/商品開発・製造業を抱え、店舗のデジタルマーケティングを積極的に推進している。
 「TRIAL」では小売業に特化したAIカメラを独自に開発し、顧客の買い物行動を分析することによって、最適な商品配置を実現している。たとえば筆者が実際に店舗に訪れて気づいたのは、菓子売場の棚と棚の間に冷蔵飲料を配置するなど、顧客の買い方を分析しなければ、経験的に導くことの難しい斬新なレイアウトである。
 また、来店したものの購入に至らなかった「来店顧客」の分析にも踏み込んでいる。店舗ではPOSデータによる購買情報を分析することは可能だが、ECとの決定的な格差が「購入に至らなかった来店者」の分析である。この課題も同社はAIカメラの分析によって解決しようとしている。そのほか「AI冷蔵ショーケースを活用した自動発注」「電子プライスカードによるダイナミックプライシング」「スマートカートを活用したレジレス」など、“顧客と事業者の双方に利点のある効率化”に取り組んでいる。
 「AIによる効率化」というと、どこか画一的な未来の姿を連想させるが、同社の店舗から受けた印象は、「効率化」一辺倒ではなく「エリアの特性に応じた購買体験の創出」によって、地域に暮らす人々への新しい価値提供に挑戦する姿である。たとえば、「スマートカート」はレジレスという「効率化」の活用イメージが強かったが、実際に使用してみると、買い物中にカートの液晶タブレットから商品を勧められたり、クーポンが発行されたりと、今までにない楽しい購買体験を提供してくれる。購買分析によるタブレットからのアプローチは、今後は顧客一人ひとりの買い方に応じたレコメンドを反映させる予定だという。このように同社からは「効率化の先にあるスーパーマーケットの姿」、いわば未来の小売業の先駆者たる志の高さを強く感じた。

 未来のスーパーマーケット、そこに必要なものは、今の効率化トレンドの延長線上にある地域性、個別性といったローカルな部分にあるのかも知れない。効率化の進む未来は、スーパーマーケットに限らず「店舗の接客」や「地域コミュニティ」などの人間関係が希薄になりがちである。だからこそ効率化にとどまらず「人にしか提供できない価値」や「地域に根ざした価値」を追求していくことが重要ではないだろうか。
 そのために、スーパーマーケットは今まで以上に生活者のライフスタイルやニーズを深く理解し、単なる販売ではなく真に地域に必要とされる、なくてはならない存在を目指す必要があるだろう。未来のスーパーマーケットに一番大切なのは、人にしかできないサービスや、地域との接点を店舗ごとに創出し、提供していくことだと強く感じている。

出典
食品産業新聞(2018.05.31)
トライアルプレスリリース(2018.12.11)
商業界ONLINE(2019.02.04)