デジタルを通じて広がる、リアルの熱

2023年2月1日 / 主任研究員 森家 浩平

 3年前の本コラムコーナーにおいて、現地視察をしたCES(Consumer Electronics Show)2020の「お祭り」とも形容される展示会の熱気について述べた。その後、2020年1月から徐々に世界でニュースになりはじめていた新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、CESも2021年はフルオンラインでの開催となった。その翌年の2022年は例年に比べて少ない出展社数ながらもリアルとオンラインのハイブリッドで開催され、2023年は3年ぶりにリアル中心で開催された。私自身は現地に足を運ぶことはできなかったため、国内で各種報道等を通じて情報の収集を行った。
 情報収集する中での気づきとして、フルオンラインのCES2021を経験したことが大きなきっかけとなったためか、各企業におけるデジタルを活用した情報発信が以前に比べてはるかに進んだように感じられた。例えば、今回ソニー・ホンダモビリティよりEV「AFEELA(アフィーラ)」を発表したSONYは、CES2023の一般公開日前日に行うカンファレンスのハイライトを、YouTube上の公式チャンネルに動画でアップロードしており、20日間で544万回視聴されている。また、短時間の動画をスマートフォンに合わせた縦型画面で視聴できるYouTubeショートには、1分間のブース紹介動画もアップロードしており、こちらも12万回再生されている。TikTokでは音楽と映像中心の動画をアップロード、その他にもInstagram、Twitterでそれぞれ発信がなされており、各種webメディア・SNSの特性を活かした情報発信・拡散を試みている様子がうかがい知れた。SONYなど企業による発信の他にも、現地取材をしている日本経済新聞といった各メディアによる報道や現地中継レポートの様子が、YouTube、TikTokなど各種メディア・SNSで多くアップロードされている。なかには、スマートホーム分野のデバイスやシステムに注目したYouTube上の英語によるレポート動画など150万回以上再生されているものも見られた。
 これらの盛んな発信は、動画を用いたSNSの発達や普及、また、各出展企業・メディア・現地参加者による、自らの提供情報に向けて興味関心層を誘引する目的があると考えられる。一方で、やはりその根本にあるのは、3年前にも感じた「お祭り」のようなCESのリアル会場の熱気を、現地に来られない人にも伝えたい・共有したいという思いがあるのではないか。また、SNS等を通じて情報に触れる側も、現地に足こそ運べないものの、現地の熱を少しでも感じたい、流行をつかみ取りたい、と考えているからではないだろうか。各種デジタルツールを活用していくら情報発信をしていても、その伝えられている内容が魅力に乏しいものであれば情報の拡散は起こりにくい。ある種の熱を帯びることで初めて、情報が広く広がる流れが生まれるのではないだろうか。
 自分自身を振り返ってみて、ここ最近でリアルで見て思わず人に伝えたくなったものは何かを考えてみた。すぐに思い当たったのは、2020年12月から今年3月31日まで横浜の山下ふ頭に設置されている「動くガンダム(GUNDAM FACTORY YOKOHAMA)」を、昨年末に見に行った時のことである。会場を訪れると、巨大なガンダムの前に、国内だけではなく海外からも大勢の観光客が来ている様子がみられた。高さ18mの圧倒的なスケールの実物大のガンダムにただただ見入る人や、記念撮影をする人、カメラを固定して動画を録る人など、多くの人が思い思いにその空間を“体感”していたのが印象的だった。時間の都合で夜のライトアップ演出を見ることはかなわなかったが、動画で撮影する人々がいたことを自宅に帰って思い出し、早速YouTubeで検索してみると、多くの高画質の動画がアップロードされていた。なかにはアップロード後2年間で547万回も再生されていたものもあった。私はここにも確かな熱を感じることができた。
 オンラインとリアルを意識し、ハイブリッドの最適なバランスを世間としても模索してきたこの3年間の中で、年末年始に体験したこの2つの事象を通じて、リアルとオンラインが好循環となるモデルケースの1つを垣間見た気がした。ネガティブな情報が広がるメカニズムには異なる作用があるのだろうが、ある種ポジティブな感情を持って何かが世の中に伝わっていくには、きっとそれに関わった人々やそれを受け取った人々の“熱”が込められていることがとてつもなく重要なのだ。            

出所:1月24日 YouTube CES2023、GUNDAM YOKOHAMAなど関連ワードの検索結果