リモート・コミュニケーションが後押しするメンズビューティー市場

2021年9月1日 / 研究員 古屋 実華子

存在感が増す「メンズビューティー」
 最近、マスメディアやSNSで「メンズビューティー」という言葉を耳にする機会が増えたように思う。
 2021年に調査会社インテージが行った「全国消費者パネル調査」(注1)によると、2020年の化粧品市場全体の売上は9,315億円であり、コロナ禍前の2019年(1兆472億円)と比べて89%にまで落ち込んでいる。その要因として、外出自粛の影響により人と会う機会、すなわち化粧をする機会が減り、美容に対するモチベーションの低下が考えられる。一方、同調査によると男性向け化粧品市場の2020年の売上は373億円であり、前年(357億円)比で104%に伸長している。とりわけ、洗顔料や化粧水といった男性向け基礎化粧品の売上の伸びが目立つ。
 化粧品業界におけるメンズビューティーに関する各社の取り組みをみると、例えば、そごう横浜店では紳士フロアを2021年2月にリニューアルする際に、近年の需要増を背景にメンズビューティー関連商品の充実を図るために、売場面積を改装前の約25㎡から6倍の約150㎡に増床した。その結果、メンズビューティー関連商品の売上は、前年同月と比べて約6倍に伸びた。(注2・3)
 また、LINE株式会社が2020年8月に、自分にマッチしたコスメや美容情報などを提供する美容ポータルサイト「lacore(ラコア)」を開設した。そこでは、従来の中心顧客層である20代~30代の女性に向けた品揃えに加え、新たにメンズコスメ、ジェンダーレスコスメの取り扱いを始めた。(注4)
 なお、本コラムでは「メンズビューティー」とは、男性向けの化粧品(スキンケア)やヘアケア、ヘルスケア等、男性の身だしなみに関する商品やサービスとする。

メンズビューティー市場拡大の一因は「リモート・コミュニケーション」?
 それでは、なぜ今、メンズビューティー市場が拡大しているのだろうか。
 コロナ禍が続く中、リアルの場で行っていた様々な活動が、オンラインを活用してリモートで行われている。リモートによるコミュニケーションでは、リアルの場にて対面で行う場合と比べてお互いの表情が読み取りづらいことから、これまで以上に相手の顔をよく見て、表情や素振りなど非言語系のコミュニケーションをより注視することになる。その結果、画面上の自身の映り方、いわゆる「画面映え」を良くする、すなわち「顔」を中心とする視覚的な印象を高めるため、スキンケア、ヘアケアなどを意識し、実行する男性が増えたのではないだろうか。

データから読み取れる男性の「画面映え」意識の向上
 2021年に資生堂が行った「『リモート会議/リモート面談における第一印象』に関する意識調査」(注5)によると、「リモート会議において相手からポジティブな印象を受けた」点として、1位の「話し方(42%)」に次いで「見た目(30%)」が挙げられている。また、同一人物のメイクアップ(アイブロウ、色付きリップ等)のあり・なしの第一印象を比較したところ、メイクアップありの第一印象の方が良いという傾向がみられた。
 さらに2021年にパナソニックが行った「ムダ毛ケアに関する調査」(注6)によると、「ステイホームでオンライン会議が増えたことにより、画面上で自身の印象や身だしなみを意識するようになりましたか?」という質問に対し、男性では「意識するようになった(30%)」「どちらかといえば意識するようになった(33%)」の合計が60%超となっている。また、男性が「オンライン会議をすることで、相手の印象で気になるようになったことは何ですか?」という質問については、1位の「ヒゲ・ムダ毛」に次いで肌(「肌のハリ(33%)」、「乾燥(30%)」、「毛穴(23%)」等)に関する事柄が列挙された。そして、「オンライン会議が増えたことで、顔の印象で気を付けるようになったことは何ですか?」という質問に対する男性の回答をみると、「スキンケア化粧品を初めて使うようになった(36%)」や「化粧水等でスキンケアを強化するようになった(35%)」となっている。

男性の視覚的な印象を高める意識は「顔」から「全身」へ?
 これまでみてきたように、コロナ禍で普及した「リモート・コミュニケーション」によって、「画面映え」の中心となる「顔」の視覚的な印象を良くしたいという男性のニーズが顕在化したようだ。その結果として「メンズビューティー」の市場が急速に広がったと考えられる。
 今後コロナ禍が沈静化していく中で、リアルの場でのコミュニケーションは回復し、人と会う機会が増えることだろう。
 そのような中で、コロナ禍で「画面映え」を経験した男性は「顔」だけではなく、「全身」に対しても視覚的な印象を意識するようになるのではないか。そして、個人個人の価値観に沿ってネイルケアやスキンケア、さらにはひげの手入れなどのメンズビューティー関連の商品やサービスに対するニーズが今までに以上に強まるのではないか。
 そう考えると、メンズビューティー市場は、今後さらに存在感が増す可能性を秘めており、目が離せない。

<出所>
注1:2021年4月 ㈱インテージ「全国消費者パネル調査」
   https://www.intage.co.jp/news_events/news/2021/20210422.html
注2:2021年2月 wwdjapan記事「そごう横浜店が紳士フロアをリニューアル コスメ関連スペースを約6倍に増床」
   https://www.wwdjapan.com/articles/1183020
注3:2021年6月 prtimes記事「メンズコスメは昨年比で売上約6倍以上※そごう横浜店の5月実績」
   https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000896.000031382.html
注4:2021年6月 prtimes記事「美容ポータルサイト「lacore(ラコア)」、メンズ・ジェンダーレスコスメを拡充
   「BULK HOMME」や「THE FUTURE」、「iLLO」などの提供開始」
   https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003214.000001594.html
注5:2021年2月 ㈱資生堂「リモート会議/リモート面談における第一印象」に関する意識調査
   https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001887.000005794.html
注6:2021年2月 パナソニック㈱「ムダ毛ケアに関する調査」
   https://forbesjapan.com/articles/detail/39896