中国のライブコマース市場を読み解く

2021年1月26日 / 副主任研究員 汪 永香

 ライブコマースとは、文字通り「ライブ動画」と「Eコマース(ネットショッピング)」を組み合わせたもので、ライブ動画で商品を販売する新しい手法のことである。
 視聴者はリアルタイムで質問やコメントをすることが可能なため、ネットショッピングでありながら実店舗で買い物をするような臨場感を味わうことができる。
 中国商務部の公表によると、2020年上半期のライブコマースイベントの開催回数は1,000万回、ライブコマースで活躍するライブ配信者は40万人、視聴回数は500億回、販売商品は2,000万アイテムを超えている(注1)。ライブコマースの市場規模は、2020年は1兆元(1元=16円換算で16兆円)を突破し、2021年も急成長して2兆元(32兆円)にまで拡大する見通しと言われている(注2)。

 ライブコマースが急成長した背景には、中国人の即決即断の行動力や、リアルタイムコミュニケーションを取りたがる国民性が根底にある。その上、「タオバオライブ」「TikTok」「快手(クアイショウ)」など大型ライブ配信プラットフォーム、及び薇娅(Viya)、李佳琦(Austin)など影響力の強いトップインフルエンサーの存在が大きい。また、政府や企業がライブコマースに対して積極的であることも影響している。さらに、消費者にとって、ライブコマースのメリットが大きく、広く受け入れられている。
 例えば、トップインフルエンサーがライブ配信を行う場合、特別企画や優遇価格で販売するケースが多く、商品を安く手に入れられる。また、偽物が度々問題になる中国では、ウソのつきづらいライブ動画配信の中で、ライブ配信者とのリアルタイムコミュニケーションに、視聴者が信頼・安心感を持ちやすい。加えて、イベント的な要素が盛り込まれ、臨場感のある買い物体験を提供してくれるため、コロナ禍で時間を持て余す昨今は、生活者にとって一種の娯楽にもなっている。
 このように急成長してきたライブコマースではあるが、一方で問題も多い。法整備はまだできておらず、責任の所在もあいまいなため、取引のトラブルが少なくない。例えば、ライブ配信者が虚偽や誇大な表現で違法な宣伝をしている、生中継の説明と実際に届いた商品の品質が異なる、アフターサービスが受けられない、などである(注3)。直近では、トップインフルエンサーの辛巴(シンバ)の「ツバメの巣事件」(ライブ配信した即席ツバメの巣は単なる砂糖水だった)などがネットを騒がせた。
 また、企業にとって売れても利益が少ないといった問題がある。売上を上げるため、企業はトップインフルエンサーを起用することが多い。その場合、トップインフルエンサーに巨額の報酬を支払うと同時に、商品の値引きを余儀なくされる。そのため、売れれば売れるほど損をしてしまうケースも少なくない。

 まだまだ課題が多いライブコマースではあるが、その中で、企業トップや生産者によるライブコマースが異彩を放っている。
 例えば、家電大手の格力電器(グリー)のトップである董明珠(ドン・ミンジュ)がタオバオライブで13回のライブ配信を行った結果、476.2億元(約0.76兆円)の売上を叩き出した(注4)。
 大連凱洋(カイヨウ)グループの創立者である魏洋(ウェイヤン)は、30年の漁業従事経験を活かし、「快手(クアイショウ)」で自社の海産品のライブ配信をし、自社ブランドの知名度向上、売上拡大、販路開拓の「一石三鳥」を実現した。
 トップインフルエンサーを起用せず、自らライブ配信を行う理由について、「自分は誰よりも自社商品に詳しいから」と、上記の企業トップや生産者は口を揃えて語っている。
 このように、コロナ禍の中、ライブコマースは中国経済の新たな起爆剤となっており、新型コロナを抑え込み、経済活動が回復に向かっている今でも、その人気は衰えていない。

 日本においても、すでに伊勢丹や、渋谷パルコ、資生堂などの企業がライブコマースを試みている。今後、5Gなどの通信技術の普及やプラットフォームの進化に伴い、ライブコマースは、日本でも新しい販売チャネルとして普及する可能性が高いと思われる。
 以上を踏まえると、日本の企業も将来を見据えてライブコマースに早めに取り組むことが望ましいと言える。
 なお、ライブコマースと言っても従来の販売手法と同様に、商品、物流、アフターサービスなどが基本であることに変わりはない。その上で、以下のポイントを押さえておきたい。
 1)ライブコマースを企画・運営する専門部隊を立ち上げ、継続的に取り組む。
 2)将来を見据え、自社商品に詳しい経営層や販売員をライブ配信者に育成する。
 3)配信の頻度・鮮度を保ち、視聴者に楽しさなどの付加価値を提供する。
 4)ライブ配信は、生産者とのコラボも視野に入れる。
 5)ライブコマースで得た膨大なデータを、商品の改良やサービス向上に活用し、良いサイクルを作っていく。

注1:紅星新聞
  (https://www.sohu.com/a/410554208_116237)
注2:「1兆元市場に向かうライブコマース」(KPMG及びAri Research)
  (https://i.aliresearch.com/img/20201013/20201013135023.pdf)
注3:「618 消費者クレーム調査報告」(中国消費者協会)
  (http://m.cqn.com.cn/ms/content/2020-06/30/content_8613787.htm)
注4:東方財富網
  (http://finance.eastmoney.com/a/202012131735041698.html)