中国の越境EC市場を読む

2019年2月18日 / 副主任研究員 汪 永香

 中国では、ECの急速な発展に伴い、越境ECも世界一盛んになった。諸外国の企業も、中国の越境ECを大きなビジネスチャンスと捉え、注目している。日本企業も、すでに中国向けの越境ECに参入している企業もあれば、これから参入を検討しようとしている企業もある。本稿は後者の一助になれればと思う。
 中国では、「日本製品は品質が高い」と信頼が厚く、ニーズも高い。越境ECが発展する前は、中国人が日本製品を手に入れる手段としては、自分や知り合いが日本旅行に来る際に大量購入するか、在日中国人に代理購入を頼むかであった。前者は爆買い現象を引き起こし、後者は代理購入というビジネスを形成した。越境ECが主流となった今でも、日本製品は一番人気が高い。この人気は、日本旅行に来る中国人及び在日中国人と密接な関係にある。
 日本旅行に来た中国人が購入した商品は、彼ら自身が使うだけではなく、お土産として友人や同僚などにあげるケースも多い。彼らが使って良かったら、同じ商品をリピート購入する傾向にある。それだけにとどまらず、これらの商品情報や利用した感想は、近年急速に普及したSNS 、WeiboやWeChatを通して瞬く間に広がり、国内にいる中流階級や富裕層の新規購入を促す。その口コミがさらに広がり、次の購入をもたらす。この一連の流れが、これらの商品の、越境ECサイトにおける人気をもたらし、維持・拡大していくのである。日本旅行に来た中国人の心を掴むことは、越境ECを制する近道とも言える。
 一方、在日中国人は、日本製品の信頼すべき情報伝達者となっている。特にWeChatの普及が彼らの存在感をさらに大きくした。在日中国人は、それぞれ、同郷、クラスメートなどたくさんのコミュニティに所属し、発した情報は、一瞬にして数多くの中国人へ伝わる。また、中国にいる人々に日本製品の購入を頼まれたりするケースも多い。その際には、当該製品が越境ECサイト上にあれば、自分で買って発送したりしなくて済むので、好んで教える。結果、在日中国人は、日本製品だけでなく日本企業の越境ECサイトの情報伝達者にもなっている。したがって、日本企業は国内で、在日中国人を含めた消費者にしっかり対応をすることが、越境EC成功の基礎になる。
 また、日本企業が中国の越境ECに参入する際には、中国の越境ECサイトを利用するのが効果的である。理由は、ECが中国人の生活に深く浸透しており、彼らが商品を探す際には、ECサイト内で検索することが一般的だからである。いきなり自社独自の通販サイトを作っても、埋もれてなかなかアクセスしてもらえない可能性が高い。先に中国の越境ECサイトで人気が出てから、自社独自の通販サイトや直営店を運営すれば成功する可能性はある。加えて、中国の越境ECサイトを利用すれば、“W11”注1 や“618”(EC市場大手の京東(ジンドン)の設立記念日)などのECビッグセールイベントがあるので、一気に莫大な売上をたたき出す可能性を秘めている。
 中国の越境ECで人気の高いサイトは、シェア順に、ネットイース子会社が展開するKaola、アリババ傘下の天猫国際(Tmall Global)、京東(ジンドン)の海囤全球(jd.hk)、フラッシュセールECサイトの唯品会(VIPshop)が展開する唯品国際(global.vip.com)などがあげられる。
 これらの越境ECサイトには、多くの名の知れた日本企業が旗艦店を出店している。たとえば、花王、資生堂、カルビー、小林製薬などのメーカーや、近鉄百貨店、三越伊勢丹、東急ハンズ、赤ちゃん本舗などの小売企業、楽天市場などのネット通販企業である。また、出店はしないが、ECサイトに商品を卸す、といった形の参入もある。
 さらに中国の越境ECに参入する際のポイントとして、中国の商習慣を知り、対応することが必要である。たとえば決済については、中国の金融決済システムは独自の発展を遂げており、越境ECも、アリペイやWeChatPayが主流となっている。プロモーション手段としては、WeiboやWeChatが有力と言える。Weiboは不特定多数の人に情報発信できる。WeChatは普及度が高く、クローズドSNSとしての性質から、流れている情報に対する信頼が厚い。WeiboとWeChatをうまく利用すれば、効果的なプロモーションができる。一方、偽物など、何か不祥事があれば、情報が一瞬にして拡散してしまうため、企業へのダメージも大きい。
 中国の越境ECは、まだ成長途中で、ポテンシャルが非常に高い。前述のような点に留意し、最新の市場動向を注視しながら取り組めば、日本の企業にとって、魅力的な市場であり、大きな商機であるに違いない。

注1 W11(ダブルイレブン)は11月11日のことで、中国で光棍節(こうこんせつ)、即ち「独身の日(シングルデー)」とも呼ばれている。2009年に、中国最大のECプレーヤーのアリババがオンラインショッピングを盛り上げるため、この日にセールのイベントを行ったのがはじまり。近年、W11は11月11日から1週間ほど開催されるEC業界全体のセールイベントとなり、EC市場にとって最大の商戦となっている。