人生初のオンライン授業

2021年10月6日 / 主任研究員 森家 浩平

 本コラムをお読みいただいている皆さまは、日ごろどのくらいの頻度でオンライン会議に参加されているのだろうか。オンライン会議は、会議室への移動時間が不要なため、会議と会議の間の切れ目もなく、日に何件もの会議や打合せに出席されている方も多くおられることだろう。かく申す私も、週に何件かは必ずオンライン会議や打合せに出ている。新型コロナウイルスで在宅勤務を余儀なくされた2020年4月頃は恐る恐るオンライン会議に出席していたが、それから1年半近くが経過し、随分とオンライン会議における作法や各種ツールの利用等に慣れてきたように思う。それでも時折、マイクのON・OFFを忘れたり、ハウリングを起こしてしまったり、と冷や冷やしながら操作をしている状況にある。
 このように戸惑いながらもオンラインでのコミュニケーションに慣れつつあるさなか、昨年10月のコラムにも登場させていただいた私の息子が、今年9月に、小学1年生にして人生初のオンライン授業を受けている姿に、またしても衝撃を覚えた。彼はオンライン授業に全く抵抗がないのである。むしろオンラインであることを楽しんでさえいる・・・。
 私の息子が通う公立小学校は、今年の夏休み明けの授業形態として、新型コロナウイルス変異株・デルタ株の感染力の猛威に対応するため、ハイブリッド授業を採用した。クラスのおよそ半分の人数が、半日を学校で過ごし、その間に残りの半数の生徒は、自宅にてオンラインで授業に参加する。そして半日が過ぎると、学校で過ごしていた生徒は、自宅に帰ってオンラインで授業を受け、自宅で授業に参加していた生徒は学校に登校する。これによって、クラス内に全員がそろわない状態をつくり、できる限り密を避ける、という方法である。
 オンライン授業がいよいよ開始となる日の前日に、彼は意気揚々と、小学校で借りた1台のノートパソコンを自宅へ持ち帰ってきた。そして、自宅のWi-Fiネットワークへの接続を頼まれたので、私の方で接続をした。私は内心、このような1年生が、果たしてオンライン授業を受けられるのであろうか・・・、と一抹の不安を感じていたのだが、不安はまったく的中しなかった。その日は、私は在宅勤務をしていたのだが、ふと気づくと、授業の10分以上前に、息子はオンライン授業とおぼしき画面を開き終えており、「マイクオフだから、パパしゃべって大丈夫だよ」と言ってきた。どうやら私が心配する間もなく、息子はノートPCをスムーズに起動し、よどみなく手元の用紙で自身のIDとパスワードを確認した上で入力を済ませ、学校の指定する専用のページへアクセスし、さらには、マイクオフの操作を済ませていた訳である。これには私も舌を巻いた。大人の私が、恐る恐るオンライン会議に慣れてきたのに対し、小学1年生が、その見事なまでの好奇心で、一瞬にしてオンライン授業に参加していたのである。彼は楽しくて仕方がないらしく、様子を見ていると画面を思うままにタッチして、何やら色々試そうとしている。道理で上達や機器の操作に慣れるのが早い訳である。
 新型コロナウイルスの感染拡大第5波が一定程度収まり、緊急事態宣言の解除前日となる9月30日に、私は、息子と小学4年生の娘に、オンライン授業の感想を聞いてみた。息子は、対面授業でもオンライン授業でもどちらでもよい、と答え、娘は対面授業の方がよい、と答えた。私はこの差について考えてみた。娘は、これまで対面の授業が標準であり、一方で息子は、1年生なので対面授業の経験もまだ浅い状態である。そのため比較対象としての対面の授業の価値があまり自身の中でよく認識できていない可能性がある。その経験の浅さより、かなりフラットな感想として、対面でもオンラインでもどちらでもよい、と答えたのではないか。
 これを拡大して考えてみると、現代の大人や、対面コミュニケーションの価値を実感してきた小学3年生くらいまでの世代と、コロナ禍に小学校入学を迎えた世代において、コミュニケーションについてのとらえ方、価値観に大きな違いが発生しているのではないか。そのように考えを巡らすと、現在6歳、7歳、8歳にあたる子どもたちは、全く違う角度からオンライン上でのコミュニケーションの価値をとらえ、従来の価値によらないコミュニケーション体系を築いていくかもしれない。そのようなことに思いをはせる、2021年の秋の夜長である。