子どもとスマホの気になる関係 ~デジタル端末UIの進化

2019年3月19日 / 副主任研究員 森家 浩平

 我が家の子どもたちをみていると、生まれて間もない頃からスマートフォン(以下「スマホ」という)やタブレット端末などのデジタル機器に囲まれている。そのような環境の下、スマホ等のタッチ操作や動画サイトの視聴だけではなく、最近ではAIスピーカー(AI音声アシスタントを利用したスピーカー)に話しかける行為が、幼稚園~小学校低学年の彼らにとって自然で日常的なものになっている。2~3歳の頃には、おもむろにテレビ画面をタッチ操作しようとするなど、まさに“デジタルネイティブ”そのものである。同時に、今から20数年後に子どもたちが30代を迎える頃にはどうなってしまうのか、と期待と同時に不安を覚える。
 電通と東京大学大学院の共同研究チームによる乳幼児のスマホ利用の調査結果によれば、0歳児の約23%がスマホに接しており、4歳児では約43%と、高い割合を示している。また、スマホやタブレットに接している0~3歳児の約13%が「テレビでスワイプ、ピンチアウト・ピンチイン(※)」をしており、さらに約14%がスマホに向かって「話しかける(Siri、グーグルアシスタントなど)」操作をしているという。このような調査結果から、デジタル端末のユーザーインターフェイス(以下「UI」という)が幼少期の子どもにとっても直感的で分かりやすく、操作しやすいことがわかる。
 直感的なUIを備える最近の機器として、グーグルの「グーグルホーム」、アマゾンの「アマゾンエコー」などのAIスピーカーがある。電通の調査によれば、AIスピーカーの普及状況は8%程度だが、これを利用している人のおよそ半数が「AIスピーカーには機能によるが、スマホより圧倒的に便利な使い方がある」と感じているという。つまり、AIスピーカーの利用者にとっては端末へ話しかけることで情報が得られたり、機器を動作させられるAIスピーカーの方が、場面によってスマホ画面で入力操作を行うよりも使いやすいのだろう。なお、利用する機能としては「音楽を聴く」「天気のチェック」「アラーム/タイマー設定」が上位3つを占めている。キーボードからコマンド入力していたパソコンの時代から、MacOSやWindowsOSといった視覚的なUIを伴ったパソコンを経て、2008年に登場したiPhoneに代表されるスマホやタブレット端末における指先タッチ操作へ、さらにはAIスピーカーにおける音声操作など、UIの進化には近年目覚ましいものがある。
 そのような潮流にあって、2019年2月にバルセロナで開催された携帯通信関連見本市MWC2019では、マイクロソフト社がMR(複合現実)技術を活用したゴーグル型端末の最新機種を発表している。この端末ではゴーグルに映し出される映像を直感的にジェスチャーで操作することが可能だという。これはスマホの画面サイズや指先タッチ操作の制約から、視界全体・身体全体を活用したより人間の自然な動きに即したUIの実現である。すなわちデジタル端末の人間の身体化が進むことを実感させる。
 これらは技術の進化により実現されるものであるが、使用・操作する人間にとってみれば人間の頭の動きや体の動きにあわせて、より直感的で原始的な方向への一種の回帰と捉えることもできる。アップル社は2018年主催の開発者向けイベントで、iPhoneを持つ手と古代の石斧を持つ手を対比させたスライドを投影したが、旧石器時代の石の塊である道具とテクノロジーの塊である最新機器の対比は、人間の感覚と道具の関係性を考えるにおいて様々な示唆に富んでいると感じられる。将来の子どもたちは、より自然な形で表現され、身体化したUIを通じて、高度で複雑な情報をAIに解析させながら、便利かつ効率的で快適な生活をすることになるのだろうか。
 ところで、2020年からの新学習指導要領では小学校でコンピュータ・プログラミングが必修化となる。文部科学省の資料によれば「プログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的な思考力を身につけるための学習活動」を行うとの事で、筆者の子どもも来年からは学校でプログラミングを習うことになる。上述の通り、社会のデジタル化が高度に進化し、暮らしとより一体化していくであろう未来にあっては、その時代を担う子どもたちが生きていく上でプログラミングはもはや必須の教育であると感じる。
 かくいう筆者自身、子どもが学習し始める前までに、子どもに聞かれてもわかったふりができるように、先取りで学んでおかねば・・・と思い至っている。いつのまにか、当初の子どもへの期待と不安が自分自身の危機感に繋がっていることに気づかされるのである。                       

※スワイプ、ピンチアウト・ピンチイン・・・
「スワイプ」スマートフォンの画面を1回触った状態(タップ)の位置から違う方向へはじく操作。
「ピンチアウト・ピンチイン」2本の指で同時にタッチして拡大(ピンチアウト)や縮小(ピンチイン)を行う操作。

出所:電通報(2018/11)『「0歳児からスマホ」の時代 ~東大共同調査からの報告』 株式会社電通
  :電通報(2018/11)『スマホより便利? AIスピーカー利用実態から見えること』 株式会社電通
  :週刊ダイヤモンド(2019/3)『マイクロソフトがゴーグル端末に秘めたスマホ成熟時代の“次の一手”』
株式会社ダイヤモンド社
  :安藤剛ほか(2018)『新版UI GRAPHICS』 ビー・エヌ・エヌ新社
  :文部科学省HP 『小学校プログラミング教育に関する概要資料』