新聞に思う

2019年1月15日 / 常務執行役員 安田 佳裕

 通勤は鉄道2路線を使う。乗車はおおよそ1時間である。現居住地に引っ越した20年前から一貫して、通勤車内で朝刊紙に目を通す。ニュースソースメディアでは、新聞をもっとも重視する。「新聞派」である。
 感覚的ではあるが、4~5年前まで通勤電車内で紙の新聞を読む人はかなりいた。しかし、ここ数年めっきり減った。ざっくり見てかつての5分の1といったところか。
 絶滅危惧種とまでは言わないが、電車内の新聞オヤジは深刻な危機にあるようだ。新聞派として、この状況はいささか肩身が狭い。熱心に朝刊を読んでいる人に出会うと、「お互いがんばりましょう」と心の中でエールを送る。
 一般紙だけではなく、スポーツ新聞やタブロイド夕刊紙を読んでいる人も見かけなくなった。スマホで新聞各紙の電子版やウェブサイトを見ているのか、あるいはニュースを得る手段として、新聞そのものが敬遠されているのか・・。

 日本新聞協会が公開している最新の調査データを見ると、国内の日刊新聞の発行部数は2000年の5,370万部から2018年は3,990万部と大きく減少している。注(1) 新聞離れは顕著と言える。
 もう一つメディアに関する興味深い調査がある。総務省情報通信政策研究所では、2012年から毎年1回、国民の情報通信メディアの利用に関する調査研究「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を行っている。最新となる2017年の調査を見てみよう。項目は多岐にわたるが、いくつか新聞の実態を表わす調査結果がある。その一つが「テレビ、インターネット、新聞、ラジオの利用時間と行為者率」というもの。調査対象者のうち、各メディアを利用した人の比率である。平日における新聞利用比率は、2012年に40.0%であったが、2017年は30.8%と10ポイント落としている。一方でインターネット利用は、71.0%から78.0%と増加している。2017年調査における年代別の新聞利用比率は、10代3.6%、20代7.4%、30代16.6%であり、若い世代にとって新聞は身近なメディアではないようだ。
 さらに、「紙の新聞、新聞社ニュースサイト、ポータルサイトニュース配信、ソーシャルメディアニュース配信で、最も利用するものは?」との問いには、紙の新聞は2012年59.3%であったが、2017年35.9%と大きく落ち込んでいる。注(2)
 新聞派としては、悲しい数値ばかりが並ぶ。

 私がニュースソースとして新聞にこだわる理由は3つある。一つは、よく言われることだが、情報メディアの中で新聞は、一覧性、網羅性にもっとも優れているからである。すなわち、短い時間で、政治、経済、社会、文化、科学、あらゆる分野の内外の動きが読み取れるということ、さらには見出しの大きさ、記事の量で、情報の重要度、注目度が瞬時に把握できることである。
 二つ目の理由は情報の信ぴょう性、正確性、ということ。私自身、企業の広報部に長く務めていたこともあり、新聞の製作過程をよく理解しているが、そこには実に多くの人が関わっている。全ての記事において、第一線の記者が緻密な取材を行った上で原稿を書き、それを複数の人間がチェックしていく。新聞人たちは報道の正確さに絶対の自信を持っている。時に見る訂正記事は新聞人にとって屈辱なことに違いない。
 三つ目は、生きた教材としての活用である。大きな新聞社であれば、様々な分野において、専門性を持った記者が大勢いる。そういった専門集団の企画、特集記事などは、理解しやすくかつ実務的で、仕事上の資料として非常に重宝している。
 先日、旧知の某紙デスク(所属は経済系)から、「最近、企業トップのところへ夜回り、朝回りをしない、直接相手に会わないで電話で取材し記事にしようとする・・ そんな記者が出てきた。とことん事実を掘り下げていく、骨のある記者が少なくなりましたよ・・。」との「ぼやき」を聞いた。新聞記者と言えば「足で稼ぐ」というイメージだが、彼らの意識や働き方もだいぶ変わってきたのかも知れない。

 新聞派として、あと一つ言いたいこと。ここ数年、特に全国紙において、色が突出しすぎる紙面にしばしば遭遇する。リベラル・保守といった論調のことである。特に憲法改正、安保法制、基地問題、原発などのテーマではその傾向が顕著で、偏り過ぎと感じることもある。
 最近の事例を取り上げてみる。2018年12月14日、政府が米軍普天間基地の移転先としている名護市辺野古沿岸で埋め立てが始まった。翌日の各紙朝刊では、その報道に関する論調、紙面スペースの割き方、見出し等、際立った色が出た。一番わかりやすいところで、全国紙各紙の辺野古埋め立てに関する社説の見出しを記載すると、「民意も海に埋めるのか」(朝日)、「民意は埋め立てられない」(毎日)、「沖縄に理解求める努力を」(日経)、「基地被害軽減へ歩み止めるな」(読売)、「普天間返還に欠かせない」(産経)、と各社のスタンスが見事に表われた。
 先に挙げたテーマ以外にも、左右に振れ過ぎの記事に出会うことが多く、気になるところである。多くの国民は、一般紙の購読は1紙であろう。各紙のスタンスを理解したうえで読むならばいい。しかしそうでなければ、偏ったものの見方や考えを一般的なものとして受け入れることになろう。「このような見方がある」といった意見の範囲であればいいが、事実をゆがめて理解させるような過剰な論調の記事は遠慮したい。新聞の記述の原則は両論併記。新聞社としての明確な主張はあってよいが、その一方で別の見方があることを、必ず記述すべきであろう。
 事実のみが、正しく客観的に報道された記事が嬉しい。自分の考えや意見は、公平公正な報道に基づき、自分自身でまとめたい。

注(1) 一般社団法人日本新聞協会ホームページ「調査データ」より
注(2) 総務省情報通信政策研究所「平成 29 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」より