東京の「国際文化都市」化に向けて

2023年6月13日 / 主席研究員 山内 智孝 

●東京も定住人口が減少へ
 東京都によれば、都内の定住人口は2023年2月現在推計1403万人で、2年後のピークまで微増が続いた後、減少に転じるという。すでに日本全体の定住人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じており、50年後には現在の7割相当8700万人、100年後には4割相当5000万人前後まで縮小すると推計されている。一方、地球全体を俯瞰すると、現在約80億人の世界人口は今後も増加が続き、約60年後に104億人のピークに達する、と国連は推計している。この先数十年の未来を想像すると、世界はさまざまな災禍を経ながらも、マクロ的には生産年齢人口増を背景とした経済成長が続くであろうし、我が日本は、世界史に前例のない人口急減構造の中、新しい経済成長の柱を模索していかねばならない。

●東京は“インバウンド人口”を吸引中
 さて日本ではコロナ禍が沈静化して、インバウンド(訪日外国人)の数が急速に回復しつつある。インバウンドの来訪先で最大の都道府県は東京であるが、コロナ直前の東京来訪者数1410万人(2019年日本政府観光局JNTO)は、冒頭の東京定住人口とほぼ同数である。近年、地域を支える人口の概念は、関係官庁を中心に、従来の「定住人口」に加えて、観光系来訪の「交流人口」、ビジネス系来訪の「関係人口」の3つの概念の総和として整理され、地方創生や地域活性化の政策ストーリーは「『定住』の減少を『交流』と『関係』で補てんする」構図に依拠しているものを多く目にする。この観点に立てば、インバウンドは「定住人口」減少を補てんする、国際版の「交流人口」「関係人口」と見立てることができるのではないか。日本の首都「東京」が、国内都市のリーダーとして、観光系来訪の「交流人口」とビジネス系来訪の「関係人口」を合わせた、いわば“インバウンド人口”を、国際的に吸引し続けていることにまず注目したい。

●世界が関心を持つ、東京の現代文化
 観光系来訪の「交流人口」はもとよりビジネス系来訪の「関係人口」においても、都市の「文化的要素」の魅力は強力な吸引力だ。そこで、世界的に関心を持たれている現代東京の「文化的要素」を列挙してみる。

<グルメ文化>
 東京にはミシュランガイドに掲載される高級レストランから、安くて美味しい屋台まで、さまざまな店舗がある。高度な冷蔵技術と正確な交通網により、日本各地の食材を短時間で集めることができるため、多様な料理が楽しめる都市の一つとして世界に知られている。創作料理やフュージョン料理など、新しいスタイルの料理も多数存在し、食材の鮮度や品質にこだわる飲食店も多い。提供者はもちろん、来街者も食への熱意が高く、ハイレベルのグルメ文化が根付いている。

<ファッション文化>
 東京は日本のファッションの中心地として知られており、世界中から注目されるファッション文化を育んでいる。原宿や渋谷などのエリアには、若年層を中心に流行を生み出すストリートファッションのショップやブランドが多数あり、また多くのファッションブランド企業やデザイナーが集まっている。

<音楽文化>
 東京には多様な音楽シーンがあり、ロック、ポップス、ジャズ、クラシックなど、さまざまなジャンルの音楽が盛んに演奏されている。また、渋谷や新宿などのエリアには、多くのライブハウスやクラブがあり、新しい音楽の発掘や交流の場としても知られている。また、音楽フェスティバルも頻繁に開催され、若年層を中心に国内外から多くの人々が集まる。

<アート・デザイン~アニメ・マンガ文化>
 東京には、多数の美術館やアートギャラリーやデザインスタジオがあり、国内外から多くのアーティストが集まり活躍している。また日本発祥のアニメやマンガは、世界的にも大きな人気を誇り、東京はその中心地の一つとして、多くのイベントやスポットがある。例えば秋葉原や池袋などのエリアには、アニメやマンガの専門店やカフェなどが集中しており、アニメやマンガファンにとっては聖地とも言える場所となっている。

<テクノロジー文化>
 東京は、テクノロジー産業の中心地の一つであり、渋谷や湾岸地区等に多くのテクノロジー企業が拠点を置き、世界最先端のテクノロジーを取り入れた新規サービスや製品が生み出され続けている。

●東京は歴史的な文化ブランディングストーリーが脆弱(ぜいじゃく)?
 さて、都市の国際的な競争力比較においては、さまざまな機関が複数の評価軸で分析した独自の順位付けなどを定期的に開示している(※)。競争力のうち「来訪」の吸引力に関わる観点では、安全性や利便性を軸とした「機能的要素」に加えて、その都市の「文化的要素」、すなわち独自文化による差別性や優位性が総じて評価のカギとなっている。東京は、安全性や利便性など「機能的要素」の評価が総じて高い。しかし一方で「文化的要素」の評価は総じて横並びの域を出ない。前述のように東京の現代文化の人気は高いのになぜだろうか。
 仮説であるが、東京には「文化的要素」が不足しているのではなく、歴史的な文化的価値観の継承が寸断されていることにより、文化ブランディングストーリーが脆弱になっているためではないか、と推察する。つまり、東京について今一度、「文化的要素」を足掛かりとした歴史的な都市ブランドの文脈を再整理・体系化して、その優れた点を明確に訴求し直してゆくことで、より魅力的な都市として国際的なステージアップを図ることができるのではないか。

●東京ブランド155年の変遷
 東京という地域は、日本の中核都市として江戸幕府開闢(かいびゃく)の1603年から今日まで420年の歴史を持つ都市だが、“東京”“TOKYO”という都市ブランド名は、1868年「東京奠都の詔(てんとのみことのり)」によって命名されて以来、まだ155年の歴史しかない。3世紀以来のパリや1世紀以来のロンドン等の名称由来に比べて10分の1程度の経過年数だ。しかもこの155年の間、東京はたびたびの災禍と文化的な価値観変化に遭遇している。①まず東京奠都による帝都整備。明治維新の新政府は、江戸幕府が260年かけて構築した諸制度や社会インフラを帝政下に再編した。②その55年後1923年の関東大震災による都市損壊と復興整備、③さらにその22年後1945年の米軍空襲による都市破壊~連合軍占領。GHQが7年間駐留して戦前の帝政的な価値観を刷新したのち国家として再独立、戦後復興と現代インフラ整備が次々と起こる。これらは今日の国際的な民主国家成立に至る重要な系譜である一方、地域に継承されていた価値観を寸断したことは想像に難くなく、東京の「文化的要素」に与えた影響は少なからず、であろう。

●江戸東京文化史420年の連続性を体系化して訴求すべき
 東京の構造の原型は、全国一の巨大城郭と諸国から参勤する大名の屋敷群、関連宗教施設、生活サービスの店舗や関係町民住居などによる、軍人官僚(=武士)と一般町民の共存文化圏であり、さらにそこから転じた帝都化だった。一方、旧都「京都」は、王朝文化を核として時代を積層化していった仏教都市である。京都は、東京奠都後の都市経済力低下への危機感から、明治~大正期から「観光都市」への歴史文脈整理を積極的に行い、自然景観敬愛と仏教信仰の伝統を「文化的要素」の基軸として保護・情宣し、都市の国際ブランドイメージ形成に注力してきた。そしてその結果、今日インバウンドがオーバーツーリズム状態を引き起こすまでの国際的な人気都市となった。ひるがえって東京も「文化的要素」の歴史文脈を重視し、江戸期にさかのぼった客観的に整理・体系化をもとに、江戸東京文化史420年として内外訴求していくべきと思われる。

●おわりに 東京の国際文化力を進化させていく基本的な施策
 都市の「文化的要素」は、歴史的にも相互に影響しあって、東京のさまざまな現代文化を形成してきている。2021年のオリンピックおよび関連イベントはコロナ禍にあってもスポーツを含む文化情報の国際的な発信に寄与した。今後のインバウンド回復に伴って多様な国際文化が再び集まり、新しい文化が化学融合的に生まれることが期待されるが、東京を真の国際文化都市に育てていくためには、以下のような地道な施策の継続が重要であろう。文化形成は時間が育むものであり、一朝一夕には成立しない。

<文化的資源の活用>
 東京は、古くから多様な文化を育んできた歴史ある都市であり、これらの文化的な資源を活用することで、より豊かな文化体験を提供できる。伝統的な建築物や神社仏閣、美術館や博物館などを活用した文化イベントの開催や、伝統工芸品や料理などを生かした観光プログラムの開発には官民が支援を惜しまず継続せねばならない。

<文化的な教育の重視>
 東京を競争力の高い国際文化都市に育てるためには、都内在住者・在勤者に対して文化的な教育を促進することが重要であり、子どもから大人まで幅広い世代に向けて、芸術や文化に触れる機会を提供し、文化的な素養を育てていかなければならない。

<国際的な文化交流の促進>
 東京は、アジアや世界各地から多くの人々が集まる交通の要所であり、この利点を活かして、国際的な交流プログラムを累積させていくことが重要である。外国人アーティストや文化人の招聘(しょうへい)、交流センターのアップデート、留学生の受け入れ枠拡大などが挙げられる。

 東京には多くの外国人が居住しており、彼らの文化を尊重し、積極的に受け入れることで、より多様で文化的な環境を作り上げること、また、異文化交流のイベントを開催することで、異なる文化を理解し、交流する機会を提供することが重要である。

以 上

(参考)
※国際都市評価比較の例
・森記念財団「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index, GPCI)」https://mori-m-foundation.or.jp/ius/gpci/
・A.T. Kearney「Global Cities Index: GCI」
https://www.kearney.com/global-cities/2021
・The Economist Intelligence Unit「The Global Liveability Index」https://www.eiu.com/n/campaigns/global-liveability-index-2022/
・Monocle「QOL Survey」
https://monocle.com/magazine/issues/155/quality-of-life-survey-part-one/