現代における”東京都町田市”と神奈川県のつながり

2023年6月14日 / 研究員 杉田 渓

 町田市をご存知だろうか。東京都と神奈川県の県境に位置し、北を除く3方向が神奈川県に囲まれていることが大きな特徴だ(図1)。また、市の中心であるはずの町田駅はすぐ近くに県境があり、それゆえ「神奈川県町田市」と称されてしまうことも少なくない。しかし行政区分上、正式には東京都に属している。なお東急グループとも無縁ではなく、東急田園都市線のうち3駅は町田市に所在するほか、2019年にオープンした南町田グランベリーパークは町田市の南部に位置する。

    図1 町田市周辺図

    

    ※国土数値情報のデータを加工して筆者作成

 2022年6月11日には、NHKの有名番組である『ブラタモリ』にて町田が取り上げられた。私も視聴したが、町田市および神奈川県含む周辺地域について歴史的な観点と地形・地質の観点から詳細に説明されており、大変勉強になった。一方、現代においては町田市と神奈川県のつながりはきっと強いものと思われるが、その実態はどうだろうか。今回は、人流に関わるいくつかのデータを用いて、現代における町田市と神奈川県のつながりを探ってみたい。人流に関わるデータとして、令和2年国勢調査※1・第6回東京都市圏パーソントリップ調査※2(以下東京PT調査)・モバイル空間統計※3(RESAS[地域経済分析システム]に掲載)の3種を参照してみたい。

 ここで3種のデータについて概要を示す。国勢調査には各市区町村の人口のほか、当該市区町村と他市区町村間の通勤・通学者数のデータも含まれている(従業地・通学地と表記される)。そこで最新版である2020年時点のデータを用いて通勤先・通学先の傾向をつかむことを試みる。

 東京PT調査は、全数調査ではないものの、人々の移動について移動目的を含め詳細に調査したものである。なお調査時点は最新でも2018年と、少しさかのぼることになる。通勤・通学流動については国勢調査で把握するとして、東京PT調査では自宅からの私用目的(遊びに行く等)における行先の傾向について把握を試みる。ただしデータ取得時点は南町田グランベリーパーク開業前であり、現在とは傾向が異なる可能性がある点には留意が必要である。

 モバイル空間統計はスマートフォンの基地局データであるが、オープンデータとしてはRESASの滞在人口分析という形で公開されている。したがって町田市に滞在する場合のみ把握が可能で、町田市民の移動先に関する集計項目は存在しない。そのほかの特徴として、スマートフォンの基地局データのため多くの人から集計しているほか、集計は2022年6月時点と今回用いるデータでは最も新しいため利用を試みる。ただし移動目的は含まれていない。

 まずは町田市に向かう人についてみてみよう。3種の調査より、町田市に向かう人の居住自治体はどこが多いのか、それぞれ集計しランキング形式で上位10自治体を表1に整理した。

    表1 データ種類別町田市に向かう人の多い自治体ランキング(青塗は神奈川県)

    

 こうしてみると、来訪目的に関わらず実に神奈川県から町田市に来ている人が多いことが分かる。通勤・通学地を集計した国勢調査に至っては上位10自治体のうち8自治体が神奈川県である。調査によりその内訳は多少異なるものの、相模原市・川崎市・横浜市・大和市が上位を占めていることが分かる。

 続けて今度は町田市民がどこに向かっているかについてみてみよう。こちらについてはモバイル空間統計で把握することが不可能なため、国勢調査と東京PT調査にて町田市民の向かう自治体はどこが多いのか、それぞれ集計しランキング形式で上位10自治体を表2に整理した。

    表2 データ種類別町田市民が向かう人の多い自治体ランキング(青塗は神奈川県)

    

 国勢調査による通勤・通学先の結果においては上位10自治体のうち東京都が6つを占めており、町田市民は東京都心や八王子に通勤・通学している傾向にあることが分かる。しかし相模原市中央区は八王子市以外の東京都の自治体を抑えて2位となった。東京PT調査による私用目的の結果においては神奈川県の自治体が7つを占めており、町田市民が私用で向かう先としては神奈川県が多いことが分かる。

 こうしてみると、町田市と神奈川県のつながりは相当深いという印象だ。正直なところ想像以上であった。また上記の結果より、町田市とつながりの深い自治体を図2に示した。町田市との行き来の多い自治体を示す、表1と表2に両方出ている自治体は赤色、町田市に向かう人の多い自治体を示す、表1にのみ出ている自治体は緑色、町田市民の向かう人が多い自治体を示す、表2のみ出ている自治体は青色で示した。

    図2 町田市とつながりの深い自治体

    

    ※国土数値情報のデータを加工して筆者作成

 図2からは、町田市は神奈川県の自治体を中心に、周辺自治体と人の往来が多いことが分かる。都県に関わらず周辺の自治体とのつながりも非常に深い町田市は、多摩南部の都市として今後も栄え続けることだろう。そういう意味では町田市は、もはや東京都とか神奈川県というより、都県の枠を超えた存在として捉えたほうがよさそうだ。ちなみに私はかつて町田市に住んでおり、何かとネタにされてきたが、皆さんも話のタネにぜひ訪れてみてほしい。デパート・飲み屋・ラーメン屋から博物館・自然まで、色々ありますよ。

※1:『令和2年国勢調査』(https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka.html)
※2:『第6回東京都市圏パーソントリップ調査』(https://www.tokyo-pt.jp/person/01)
※3:『モバイル空間統計(RESASまちづくりマップ)』(https://resas.go.jp/#/13/13209)