釣りの経済効果

2025年10月21日 / 主席研究員 川上 剛彦

 以前のコラムで、筆者の趣味は釣り(なかでもとくにフライ・フィッシング)だと書いた。前回は、釣りを入り口にして、環境面について論じてみたが、今回は、釣りの持つ経済的側面に着目してみたい。
 そもそも筆者は大学院時代、釣り好きが高じ、スポーツ・フィッシングの環境・経済両面へのインパクトに着眼した遊漁政策のあり方を研究テーマとしていた。わが国では、遊漁、つまり遊びとしての釣りを“研究”することが、あまり一般的ではなかったため、テーマとしては画期的で、評価は悪くなかったように記憶している。
 一方、アメリカでは、遊漁(sportfishingやrecreational fishingと称される)に関するデータ整備や調査研究が盛んに行われている。今回は、膨大なデータや研究成果のなかから、アメリカにおける遊漁の経済効果についてご紹介したい。
 全米スポーツ・フィッシング協会によれば、アメリカでは年間約4,000万人が遊漁を楽しんでおり、彼らが釣り道具や釣行のために消費する額は約15兆円、波及効果は約35兆円に上り、雇用創出効果は110万人超、税収効果(連邦・州・その他地方税)への寄与は、4.5兆円に達するという。
 わが国はどうだろう。先述のとおり、釣りに関するデータは豊富とはいえないが、遊漁人口と消費額については、公益財団法人日本生産性本部が発行する「レジャー白書」で把握可能となっている。同書によれば、わが国の遊漁人口は520万人で、釣行回数と1回あたりの平均支出額から年間消費額を計算すると、約0.3兆円(より詳しくいえば2,860億円)となる。米国のわずか1/52に過ぎない。人口は米国の1/3程度、遊漁人口は1/8だから、米国における遊漁のインパクトがいかに大きいかがわかる。

              表 遊漁の経済的インパクト
   

   (資料)American Sportfishing Association(2024)「SPORTFISHING IN AMERICA」
       公益財団法人日本生産性本部(2023)「レジャー白書2023」

 釣りが、重要な地域資源であると同時に、関連する産業とも相まって経済的インパクトも大きい活動だと認識されれば、アメリカでのそれのように社会に根差して存在感を放ち、地方の活性化や我が国の経済再生の一助にも寄与するのではないか。
 数年に亘ったコロナ禍の影響もあって、もはや「失われた30年(以上)」となってしまったわが国の社会・経済情勢だが、身心のリフレッシュはもちろん、日本経済への応援というお題目にも後押しを得て、今後はより積極的に釣行してみたいものである(渓流では十二分に熊に注意しながら・・・)。