鉄道会社の不動産証券化について

2024年3月22日 / 主任研究員 内山 敬

 コロナ禍により鉄道各社の輸送人員が大きく落ち込み、その危機的な状況を回避するため、各社が資産や事業の売却により急場をしのいだことは記憶に新しい。現在はかつての日常がもどってきたとはいえ、テレワークの定着などにより輸送人員がコロナ禍前の水準に戻っておらず、将来的にも予見される慢性的な収入減への対策として鉄道各社が不動産事業に注力している。
 鉄道会社がスポンサーになっている投資法人(Jリートおよび私募リート)は下表のとおりである。東急と阪急阪神が比較的早い時期にJリートを立ち上げたが、その後はJリートは無く、私募リートが設立されている。リートとは、一般的に不動産投資信託と呼ばれている。
 Jリートとは、投資家から集めた資金をオフィスビルや商業施設、マンションなどの不動産に投資し、その賃料収入などから得られた利益を投資家に分配する投資信託である。証券取引所に上場しているため、上場株式と同じように売買することができる。一方、私募リートとは、Jリートと同様の仕組みの投資信託であるが、取引所に上場しておらず、主な投資家は年金などの機関投資家であり個人投資家が投資できないところがJリートと異なる。

  
  (公表資料を基に筆者作成)

 鉄道会社各社のリリースによると、ここ最近鉄道会社の私募リートへの参入が増えてきている。
 直近では、2023年3月にJR東日本不動産投資顧問がJR東日本プライベート投資法人の運用を開始し、2023年9月にJR西日本不動産投資顧問がJR西日本プライベートリート投資法人の運用を開始している。さらに2023年11月には、南海リートマネジメントが南海プライベートリート投資法人の運用を開始している。
 2010年11月に私募リートが運用を開始して以来、約13年間で投資法人数は54投資法人に増加した。
 なぜ最近鉄道会社による私募リート参入が増えてきているのか、考察してみよう。
 まず、コロナ禍により鉄道各社は運賃収入の減少に直面することになったが、各社はもともと不動産を保有しているケースが多く、手っ取り早く収入の減少を補うために手持ちの不動産を売却する選択をとったと考えられる。しかし、外部に売却してしまえば売却時には収入が得られるが、その後の不動産からの収入は当然ながら失ってしまう。そこで私募リートの登場である。鉄道会社自らが設立した私募リートへ売却すれば、売却益の確保ももちろん、その他に運用会社が得るAMフィーやPM・BMフィー、さらにグループ会社で修繕・改修工事を行えば工事費収入も確保できる。このように、物件を保有している期間は外部売却では得られない収入を享受できることになる。
 また、資産循環型(回転型)ビジネスモデルの構築も考えられる。開発した不動産を売却することにより開発利益を享受し、その利益を基に再投資することができる。これにより、以前よりも不動産事業を積極的に進めることができる。
 さらに財務的な観点からは、BS(貸借対照表)を軽くすること、つまりアセットライト化が求められており、BSで大きなウェイトを占めている不動産を売却することにより、財務健全性を進展させることができる。
 私募リートは価格の変動が少ないことも、新規参入が増えてきている要因の一つであろう。
 今後、私募リートや私募ファンドなどを検討している鉄道事業者は、公表資料を基に筆者が認識しているだけでも、名古屋鉄道、西日本鉄道、西武ホールディングス、相鉄ホールディングスがある。
 これからの人口減少社会において、鉄道会社にとって私募リート(またはJリート)は重要な収入の柱としていくことが必須であろう。したがって、今後とも鉄道事業者による私募リート事業の参入は増えてくると予想され、今後の動向を注目したい。そして、不動産証券化業務に携わってきた筆者の個人的な想いとしては、鉄道事業者の私募リートも含め、不動産証券化市場全体が盛り上がってくれることを期待している。