Vチューバーになりたい小学生

2024年1月31日 / 主任研究員 森家 浩平

 昨年のクリスマスに、小学生の息子がプレゼントしてほしいと希望したのは、パソコン用の高性能マイクであった。小学校中学年の子どもが欲しがる物としてはあまり似つかわしくないと感じられ、そのプレゼントを欲しがる理由について考えを巡らせたものの、全く想像ができなかった。そこで本人に理由を聞いてみると、近いうちにVチューバ―(バーチャルユーチューバーの略)としてデビューしたいそうで、その際に、マイクや複数のモニター画面が必要とのことだ。
 Vチューバ―といえば、バーチャルキャラクターのアバターを用いて、実際の人の動きをモーションキャプチャ技術によって表現しているデジタル的なキャラクターのことだ。最近はテレビCMなどでも見かけることから「何やら話題になっている。」と、おぼろげにイメージできたものの、なぜ息子がそれになりたいのか皆目見当がつかず、さらに質問を重ねた。「小学生ユーチューバーがいるのは知っているけど、そうではなくてVチューバ―になりたいの?」、本人から返ってきた答えは、「ユーチューバーだと身バレするし、炎上したら大変だから。」とのこと。身バレとは身元が明らかになってしまうことであり、身元が明らかになった状態で何らかの不祥事によってSNS上で炎上すると、今後日常生活を送る上で何かと支障がありそうだ、と考えたのだろう。小学生の人気職業ランキングにユーチューバーがランクインする時代だという認識はあったが、まさかVチューバ―に強く興味を引かれていたとは思いもよらず、また、そんなに簡単になれるものなのかも分からず、周辺状況についてインターネット上で調べてみることにした。
 調べた結果、ここでは人気の理由や市場規模等について3点を述べさせていただきたい。
 (1)アニメ的なキャラクターでありながら、ライブや配信でコミュニケ―ションがとれること
 (2)Vチューバ―の関連市場規模は成長しており、売上に占める割合はグッズ販売が大きいこと
 (3)Vチューバ―の認知層やファン層には、若年層の割合が多いこと
 まず1点目のコミュニケーションについては、日経クロストレンドの記事(※1)によれば「人気の本質は、今まで別の文脈として存在したアニメを中心とするキャラクター文化と、ライブ、リアルタイムを共有する文化が合流したことにあります。(中略)そして、生配信というシステムと結びつくことで、キャラクターとのコミュニケーションの可能性が開かれました。」とのことだ。少し本論からそれるが、技術的な視点では、リアルタイムでのコミュニケーションを可能にした通信やモーションキャプチャ、トラッキング等のテクノロジーの進化が裏側にあったことがうかがえる。
 2点目の市場規模については、矢野経済研究所(※2)によると、2022年度の市場規模は520億円であり、2020年度比で3.6倍にのぼる。2023年度は800億円へとさらなる成長を遂げる見込みである。2022年度のカテゴリ内訳としては、グッズ販売が約51%、次いでライブストリーミング課金が約26%であるなど、1点目に挙げたキャラクター文化やコミュニケーションの特徴に直接的に結び付いているカテゴリの売上が大きいことが分かる。
 3点目の認知層やファン層について、ジャストシステムの調査(※3)によれば、2019年時点で10代のうち約68%がVチューバ―を認知しており、40代以上では約2~3割という認知状況であった。また、矢野経済研究所の「Vチューバ―に関する消費者アンケート」結果(※4)をみると、アンケート回答者のうち、最も低い年齢にあたる15-19歳の男性約9%・女性約6%が「Vチューバ―ファン」(趣味に関する設問でVチューバ―を選択)であった。40-44歳では、男性約5%・女性約1%の割合であり、15-19歳の選択割合が相対的に高い結果となっていた。このように、若年層に認知されている割合が高く、また、若年層ファンの割合が他年代に比べて高いことや先に挙げた市場規模の成長見通しから、これまで以上にVチューバ―が人気を博することが想像される。
 以上より、魅力的なキャラクターとコミュニケーションをとれることから親近感がわきやすく、また、キャラクターを押し出したグッズ展開などもしやすいことから、Vチューバ―の市場がビジネス面でも注目されていることがうかがえる。
 そうした背景があって、さまざまなVチューバ―が登場しては人気を競い、ファン側も盛り上がっていく状況になっているといえるだろう。クリスマスプレゼントの背景を探りつつ、大晦日のNHK紅白歌合戦が映し出されているテレビの方をふと見やると、初出場の「すとぷり」がCGのアバターの姿でリアルタイムにパフォーマンスをしており、司会者を驚かせているのが目に入ってきた。その様子は、バーチャルがリアルの日常の中に境目なく入ってくる、象徴的な兆しのようにも思われた。

出所:※1 日経クロストレンド(2022年10月19日)「Vtuber人気の本質とは?キャラ+ライブ文化が起こす地殻変動」 
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00718/00006/
※2 矢野経済研究所 Vtuber市場に関する調査を実施(2023年)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3304
※3 ジャストシステム マーケティングリサーチキャンプ(2019年)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3455
※4 矢野経済研究所 Vtuberに関する消費者アンケート調査を実施(2023年)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3455
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