シニアのアクティブライフのカギは「とにかく楽しむこと」

2025年6月11日 / 主席研究員 岸 泰之

■定年退職後のライフコース(暮らしぶり)
 今からおよそ30年前の古い話で恐縮だが、私は当時「シニアビジネス」をテーマとする調査研究の一環で、東急グループで定年退職されたOB・OGの暮らしぶりに関する調査を行った。その調査結果からみえてきたのは、定年退職後の3つのライフコースであった。
 ひとつは、会社の規模の大小を問わず、経営者(取締役)を経て定年退職された方である。この人たちは、経営者としての人的ネットワークから、同業他社を含めて経営者(取締役)として再就職されるケースが多く、現役時代と同様に仕事を通じて生きがいをもって暮らしていた。
 一方、主に現業にあって課長以上の管理職に就かなかった方も、職能を生かした転職(幼稚園の送迎バスの運転手等)や、現役時代の変則的な勤務体制故の空き時間で得た地域の仲間との趣味活動(草野球の審判、地域活動の世話人等)を楽しむなど、やはり生きがいをもって暮らしているようであった。
 この2つのライフコースと比べて、相対的に“元気がない”ように見えるのは、男女問わず、部長あるいは課長といった管理職で定年退職を迎えた方たちであった。一般的に「企業戦士として仕事一本で生きてきたものの、会社や役職という肩書がなくなったら、(プライドがそのままで)社会からも家庭からも孤立している」とイメージされる人たちである。もちろん、このライフコースの人においても、退職後に趣味に没頭する、あるいは現役時代に培った人的ネットワークを通じて社会と関わるなど、生き生きしている人は大勢いる。

■若い時からの地域社会との関係づくりがシニアライフを彩る
 若かった私はこの調査結果を踏まえて、元々地縁があるわけではない現住地で何らかの形で関係性をもちたいと考えた。そこで、小学1年生なる長男を地元の少年少女サッカークラブに入会させると同時に、私もそのクラブにボランティアのお手伝いとして参加した。その後、少年指導(コーチ)やクラブ運営に携わるようになり、気がつくとそのサッカークラブに20年以上にわたって関わってきた。その間、ボランティアのお父さんによるシニア・サッカーチームもでき、自身もサッカーの奥深さを学び、うまくなる喜びを得て、楽しむことができるようになった。その活動の縁があって、2年前に東京都内の60歳以上(over60)のサッカークラブに加入することになった。
 ちなみに、40歳以上からなる東京都シニアサッカー連盟には、「40歳以上」「50歳以上」「60歳以上」「65歳以上」「70歳以上」「75歳以上」「80歳以上」の7つのカテゴリーがあり、全体で登録チーム数は286、選手数は5,948人(2025年2月1日現在)である。
 そのうち、「60歳以上」のカテゴリーでは、3部制でリーグ戦(1部リーグ、2部リーグ、3部リーグ)を行っており、私が所属しているチームは3部リーグに属する。
 自チームでも対戦相手のチームでも、人数の関係から上の年齢のカテゴリーの助っ人も混ざる中で、試合が始まると皆、まるで少年のように真剣にサッカーで遊び、楽しむのである。そして、試合後の反省会と称する飲み会でも、現役・退役、職種を問わず、ただサッカー談義を楽しむのである(中には、その反省会が楽しみでサッカーをしている人もいるらしい)。そのサッカー談義では、試合の戦術やサッカーの技術的な話、良いプレーや惜しかったプレーの話だけではなく、60歳以上ならではのふだんの健康づくり・体力維持の取り組みや、けが・持病の対処法、さらには医者・医療機関の情報交換も含まれる。

■今できる自身が好きなことをとにかく楽しむ!
 翻って考えてみると、「人生100年時代」と言われる中で、加齢に伴って体力や体調が下がっていくとしても、「いつまでも、元気で、自分らしく、生き生き」とアクティブに暮らしていくためには、その時々の健康状態に応じて、自身が好きなことを楽しむこと、楽しもうとする気持ちを持つことが肝要といえる。それこそが、“Well-being(心身ともに良い状態)”の極意といえるのではないか。
 このことを頭に入れて、事前・事後のケアを十分に行いつつ、週末にあるサッカーの試合を仲間と楽しもうと思う。

※日本サッカー協会(https://www.jfa.jp/)によると、全国で40歳以上(Over40)のチームは1,547、登録選手は46,866人(2024年3月31日現在)。
サッカー人口の増加と高齢化もあって、シニアのチーム数、登録選手数は増加の一途にある。