CESで感じた熱

2020年2月7日 / 主任研究員 森家 浩平

 今年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されたCESを訪問する機会があった。私の10年近く前の印象では、CESは、大手エレクトロニクスメーカーが、テレビの大型化や高画質化などを競っている、家電製品をメインとする展示会であった。しかしながら2年前に、トヨタ自動車がe-Paletteの大々的なコンセプト発表を行うなどのエレクトロニクスメーカー以外の業種による発信があり、それ以来、CESは“イノベーションを伴う、新たなビジネスコンセプト”を全世界に向けて大きく打ち出す場、と私も認識を改めた。最も大規模なテクノロジーの見本市となったCESを、初めて訪れた感想としては、まず、展示会場の広さに驚き、その会場が人で埋め尽くされている様子に圧倒された。また、夜になれば、街の中心部はCESのネックホルダーをつけた人々で大変な賑わいを見せており、旧知の知り合いが言っていた“CESはお祭り”という言葉を、まさに実感することができた。

 今年のCESでは、トヨタ自動車による2021年に着工予定の「Woven City」のコンセプト発表、ソニーによるEVの展示、現代自動車やBellのeVTOL(電動垂直離着陸機)展示、LGエレクトロニクスやサムスン電子の近い将来の暮らしをイメージした様々なプロダクト展示や、メーカーではないデルタ航空による初出展など、大手企業による先進的なプロダクトや革新的なコンセプトなどが発信されていた。各社の展示内容から、少し先の未来を十二分に感じることができた。それらは、まさしく私が思い描いていたCESのイメージそのものの光景であった。

 CES視察全体を通じて、私にとって特に印象的だったのが、およそ1200以上の企業・団体が小規模なブースを構えているスタートアップ向けのエリア“Eureka Park(エウレカパーク)”だ。いわゆる大手エレクトロニクスメーカーや自動車メーカーの展示会場は、LVCC(ラスベガスコンベンションセンター)にあり、周辺にはgoogleなどの個別ブースがある。そのLVCCから2.5kmほど離れたところにある展示会場Sands Expoの1階に、エウレカパークと称されるエリアがある。ここに出展する企業のほとんどは、それぞれがおよそ2~3m幅の狭小なブースで、自社の製品・サービスを展示している。そのため、説明側と聞く側の距離が自然と縮まり、隣のブースも同じ様に人が集まれば、そこかしこにコミュニケーションの輪ができ、熱気が生まれる。会場内の通路によっては、歩いて通過するのが困難な箇所が出てくるほどで、そこに渦巻くエネルギーに私は圧倒されてしまった。入口のすぐそばでは、フランス政府が後押しをするフレンチテックのゾーンがあり、また、日本を含む多くの国がコーナーを構えており、各国のコーナーの中は、細かく区切られて数多くの技術・デザインコンセプト・商品・サービスが展示をされている。エウレカパークでは、なんと46ヵ国の企業が出展しており、その場に居ると、世界中からあらゆるイノベーティブな“何か”が集結している様な気さえしてくる。

 4日間のうちに世界中から17万人もの人が参加し、ラスベガスの街全体が活気づく“お祭り”の中で、初めてのCES視察を通じて感じたのは、そこで発せられる熱気の中で、新たなビジネスが花開くきっかけとなる、数えきれない程のリアルなコミュニケーションがある、ということだ。現実の場で人が集うことで熱が生まれ、それらが相互に影響しあい、刺激となり、また何か新しいものを生み出す力になっていこうとする、その空気を現場で体感できたことは非常に貴重な経験であった。今年のCES主催者(Consumer Technology Association)によるセッションでは、“IoT= Internet of Things”は、これから“IoT= Intelligence of Things”になるであろう、というメッセ―ジが発せられた。情報通信分野のオンラインに関するテーマが、CESというオフラインの場で発信され、世界に広まっていくことに、リアルの場でこそ起きるある種の“ダイナミズム”を強く感じた。さて、来年のCESでは何が見られるのであろうか?今から楽しみだ。

出所:2020年1月7日 トヨタ自動車HP「トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表」
2020年1月10日Consumer Technology AssociationHP「CES 2020 Wraps: AI and 5G Define the Future of Innovation」 
2020年1月10日INTERNET Watch「IoTは“Internet of Things”から“Intelligence of Things”へ」