OneToOneマーケティングで大切にしたい視点

2019年3月18日 / 主任研究員 原田 利恵子

 近年、マーケティング市場はデジタルへのシフトが著しい。ネット広告は年々右肩上がりで拡大し、2018年にはインターネット広告費は全体の1/4を超えるまでに成長してきている(※1)。その中でも、マーケティングオートメーションツール等を導入し、従来のマスに向けた一斉のマーケティングから、ターゲット顧客に応じたOne to Oneマーケティングを強化する動きが加速している。

 顧客に応じた広告や購買履歴等に基づくレコメンド等が可能となることで、売上が向上することが期待されるが、一方で懸念されることもある。
 マッチング精度の高いレコメンドは効果的ではあるが、多種多様な企業やサービスが同様の行動をとれば、顧客が目にするプッシュ広告の量は増大する。その結果、やはり顧客の時間や財布の奪い合いが生じ、必要以上のプッシュはむしろ煩わしい存在になる危険性もある。
 また、過度なデジタルでの追跡は個人情報利用の問題にもつながる。世論調査によれば「企業に個人情報はなるべく提供したくない」という人が全体の4割、「便利になるなら企業にある程度個人データが使われてもいい」という人はわずか7%、20代でも12%にとどまり(※2)、顧客の意識も慎重になるとともに、GDPR(EU一般データ保護規則(※3))など個人情報の利用と保護に関する問題は世界的にも拡大している。
 さらに、販促活動についてはそれほど深刻ではないかもしれないが、「既に好き」や「これまでの行動履歴」のフィルターの中に顧客を閉じ込めてしまわないだろうか。自分に合ったおススメをして欲しいと思う一方で、何か新しい発見はないかと探しているのも事実である。

 では、改めてネットで接点を持つとはどういうことなのだろうか。ネットは、単にモノが売れる、お客様データを取得でき、販促プッシュもできるということだけではない。お客様と長期的につながりをもてる基盤としてネットを捉え、その企業やサービスとの関係を維持することで自分にとってどんなメリットがあるのか、顧客にその価値を感じてもらうことが大切であると思う。「販売」以上に、「顧客と長期的な関係をいかに構築していくのか」という視点にマーケティングをシフトしていくことが、これからより重要になっていくだろう。

 そのうえで大切にしたい視点がある。まずは、顧客に自社の商品やサービスを購入してもらいたい気持ちを、“売らんかな”で迫るのではなく、その企業やサービスは顧客にとってどのような存在になるのか、ポリシーやビジョンを明確にし、顧客に示していくことである。
 また、顧客の生活においてどのような役割・機能を、どのようなタイミング、接点で提供し、どのように顧客の経験価値を高めていくのか、長期的視点に立ってデザインをしていくことである。例えば、販売後のアフターフォローやサポートに注力し、顧客の役立ちや満足度をあげるといったことも考えられる。
 そして、それは本当に顧客との約束を果たしているかを常に自問自答すること。例えシステムから効果の高いデータが導き出されたとしても、ポリシーに従わないものは行わないなどの判断も時には必要であると思う。

 ネット上で情報やサービスが溢れる時代だからこそ、そうした顧客視点の価値基準を持つことが今まで以上に大切になるのではないかと思う。そうすることで、真に顧客の役に立ち、選ばれる存在になっていくだろう。

<出典・脚注>
※1:電通「2018年日本の広告費」(2019.2.28)より
※2:日本経済新聞社調査「数字で見るリアル世論郵送調査2018」(2019.1.21)より
※3:GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)EU域内の個人データ保護を規定する法規則。